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インターネットは、水道や電気と同じように、誰もが利用するインフラといっても過言ではありません。
仕事や趣味での利用はもちろん、本記事のように情報を探すツールとしても使えます。
しかし近年では、誰もが情報を発信できるようになっているため、名誉毀損の被害にあってしまう、あるいは加害者になってしまう可能性さえあるでしょう。
その匿名性から、著名人だけでなく誰もが誹謗中傷にあうリスクがあるのです。
今回はそうしたインターネット上の名誉毀損・誹謗中傷について、ネット犯罪・サイバー犯罪について研究されている、岡田好史教授に話を伺いました。
※本取材の内容は岡田好史教授の見解であり、必ずしも他研究者・医師等の見解と合致するものではありません。また研究が尽くされた分野とは限らず、取材当時の情報であることをご認識ください。 |
1992年に専修大学法学部を卒業、そのまま専修大学大学院法学研究科に進学し、1994年に修士課程を修了。
1995年に同博士後期課程に進学、その後淑徳大学と産業能率大学などで非常勤講師を務め、2003年に博士号を取得。
2004年に専修大学に入職しました。
学部時代に、砂田卓士先生による消費者保護法のゼミに所属していました。たまたまゼミで消費者保護と刑法の関わりとして、独占禁止法違反事件について研究・報告をしたことにより、刑事法に関心を持つようになりました。
その後の修士課程で、指導いただいていた大野平吉先生に「経済刑法などの新しい領域を研究してみたい」と相談したところ、「コンピュータ犯罪についての研究をしてみたら」と助言をいただきました。
1987年にコンピュータ犯罪関連の刑法一部改正がなされたことや、コンピュータ・ウイルスによるコンピュータへの加害行為、クレジットカード犯罪などが問題になりつつあったという背景もあります。
それ以降は、もっぱらネット犯罪・サイバー犯罪の方向に進み、次々に出てくる新しい問題に取り組んでいます。
私自身、ネット上であるゆえの特徴はあるかと思いますが、名誉毀損という行為に違いはないと考えています。
たとえば個人間であれば、自分が気に食わない人の言動や、隣人とトラブルが起きた場合などに誹謗中傷を書いた貼り紙をされたり、ありもしない噂を流されたりすることは現実でも生じることがあります。
拡散力の違いはあれど、同じことはネット上でも生じますので、行為に違いはないと考えています。
法人相手の場合でも、「あの企業は消費期限が切れた商品を売っている」などというデマを流す行為は、ネットでも現実でも名誉毀損としての行為に違いはありません。
刑法的な観点でいえば、人や法人の「社会的評価(外部的名誉)」を低下させる危険のある表現そのものが、名誉毀損だと考えています。
いくつかネット上の名誉毀損の特徴はありますが、特に昨今ではSNSなどを通じた拡散力の高さが挙げられます。
特にフォロワーが何万人もいるような影響力が高い人や、チャンネル登録者・フォロワーが非常に多い人が拡散すると、あっという間に広がることが大きな特徴です。
また一旦ネット上にそうした表現が載ると、Googleなどの検索結果を通じて拡散されることがあります。
また誰かがアーカイブ化していると、何らかの形でネット上に残り続けてしまうところも現実の名誉毀損とは異なるでしょう。
さらに、現実の名誉毀損では、ビラ撒きやデマを流す例のように直接相手に加害することがありましたが、ネット上の場合には中間媒介が存在することも特徴です。
名誉毀損的表現が相手に届くまで、プロバイダやサイト管理者などを通る必要がある点は、ネット上の大きな特徴のひとつでしょう。
そうした場合に、サイトのサーバーを持つ会社にも、責任が起こり得ます。
また若い人に多く見られますが、ネット上ではいくつも匿名のアカウント(ハンドルネーム)を使い分けて活動することも特徴です。
それらは現実と切り離されたインターネット上の仮想人格的なものになりえるため、それらに対する誹謗中傷が名誉毀損になり得るかといった議論もあります。
最も大きな違いとして、刑法の名誉毀損では、そうした表現行為があって法益が侵害されたという行為を中心とした、「過去の事実の存否」の話が中心になります。
民事の名誉毀損は当事者間の私的紛争の問題なので、侵害された利益が何かといった「現在の権利の存否」が問題になります。
また刑法での場合は、事実を摘示して社会的評価を下げるおそれのある行為をすることが要件であり、意図的に名誉毀損をする必要があります。
民法での場合、不法行為でしかなく、名誉毀損に対応する条文があるわけでもありません。社会的評価を低下させる表現全般が対象になります。また過失でも不法行為になり得る点も特徴です。
民事は事実を示すというだけではなく、批評や論評の類でも、不法行為として名誉毀損が成立する可能性があります。刑事の場合は、適切な論評は事実の摘示にならないので、犯罪にはなりません。
民事は論評の一環としてキツい表現を使うと、不法行為になる可能性があります。
そのため民事での名誉毀損は、不注意だったとしても責任は免れない可能性が高いのです。そうした点も含めて、民事のほうが名誉毀損として捉えられる範囲は広いと考えてもいいのではないでしょうか。
著名人はアピールの場として、SNSやブログなどネットを活用することが多いように見受けられます。
そのためファンではないアンチの人を呼び寄せてしまうことも多いのではないでしょうか。
名誉毀損そのものに違いはないものの、デマや不確定情報などによる名誉毀損になるような表現を受ける機会が、一般人よりも多いのではないかと思います。
発信者情報開示手続きに関して、いま総務省が議論を進めていますが、簡略化や第三者機関に開示手続きを委ねるといった、手続きを改める方向での影響があるかと思われます。
プロバイダ責任制限法の改正や、運用の変更につながるのではないでしょうか。
とはいえ第三者機関を設けることはハードルが高いため、免責の余地を広げることによる手続きの簡素化がメインになるのではと思います。
国によって、かなり違います。たとえば名誉毀損罪のない国もありますし、民事と刑事を区別せず、名誉毀損罪というものが運用されていないといったところもあります。
またネット上の名誉毀損かどうかで、異なる法を設けることもあります。たとえばカナダは日本と同じくネット上かどうかで名誉毀損罪を区別をしていません。
一方フィリピンでは、フィリピン共和国刑法に名誉毀損の規定があるものの、サイバー犯罪防止法の適用を受けて、ネット上の場合は刑罰を重くする規定があります。
また韓国では日本と同じように刑法に名誉毀損の規定がありますが、それとは別に特別法でネット上の名誉毀損罪や投稿にかかる送信防止措置に関する規定を設けていて、公然と虚偽の事実を示して人の名誉を傷つけた場合には、一般の名誉毀損よりも重く処罰するとされています。
ニュージーランドでも、ネット上の有害情報を規制することを目的とした法律により、ネット上で人の名誉を害する情報を投稿した場合には、犯罪として処罰する規定があります。
日本と同じようにネット上かどうかで区別しない国もあれば、ネット上では刑罰を加重する国もあり、さまざまな法整備があります。
国際的に見ると、柔軟に対応できているのではないかと考えています。
日本の刑法は裁判官の裁量の余地が広いので、メディアの特性に応じて裁判官が個々に対応し、判例を積み重ねて合理化できていると思います。今のところ上手くやれているのでは、と思います。
民事のほうはネット上のものについて、裁判例の集積ができてきている印象です。多くの人が訴えていくことにより、裁判所のIT知識の底上げも期待できます。
司法全般でいえば、発信者情報開示手続きに時間がかかる印象があります。また弁護士が発信者情報開示請求の代理や民事請求をしてくれますが、40万円ほどかかるといわれており、一般的感覚でいうと高額だなという感じを受けます。
しかし、こうした点も議論があり、実際に手続きのハードルを下げた場合、個人の被害救済に道を開きやすくなる一方で、批評・論評された企業がそのような表現をした個人の情報開示を行い、訴訟を仕掛けることにつながりかねない危惧があります。
そうした部分のバランスをとり、日本なりの発信者情報開示手続きのあり方を、日本に適した法整備を議論すべきではないかと思います。
相手のそうした表現を受けることによって、評価が下がる、あるいは下げられたと思った場合には、加害者を特定して訴える行動に出ていいのではないかと思います。
刑事の場合にはハードルが高いですが、少なくとも民事の場合には評価を下げられた、もしくは下げられる恐れがあると思った場合には、法的措置をとってもいいかもしれません。
ネット上の炎上についての研究で、炎上を引き起こす人の中には、「強い口調で非難しあってもよい」「自分が誹謗中傷されたのだから他人にしてもよい」と考えている人の割合が一般ユーザーよりも高い割合で存在することがわかってきています。
そういった人たちに対して、誹謗中傷をやめてほしいといった働きかけをしても、価値観が異なるため効果がない可能性があります。
対話が成り立たない、いわゆる「炎上」につながりかねないと感じたら、直ちに法的措置を検討している旨を宣言し、かかわり合い方を変えるようにすることがよいかもしれません。
ネット上で誹謗中傷などの行為を引き起こす人は、ユーザーの限られた一部の人にすぎません。仮にそういった人たちによって「炎上」が引き起こされたとしても、少数の一部の者の行為にすぎないことを認識しておく必要があります。
過剰に気にして情報発信を控える必要はありませんが、誹謗中傷をやめるように呼びかけても効果がないと判断したときには、弁護士へ相談し、自分で対応しないことが良いでしょう。