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その他 公開日:2020.10.9  更新日:2020.10.13 弁護士監修記事

専門家に聞く【SNSユーザーが知っておくべき】著作権と肖像権の知識

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多くの人がスマートフォンやパソコンを利用し、現在ではインターネットの存在はインフラのひとつといっても過言ではありません。

中でもSNSは、インターネット上でコミュニケーションがとれるため、プライベートのみならず仕事でも利用できる便利なツールです。

画像や動画を共有できるツールも多く、日常的にインターネットを利用している人であれば、ほとんどの人が利用しているのではないでしょうか。

しかしそうした機能があるゆえに、著作権や肖像権の侵害をしてしまったり、逆に侵害をされてしまったりする恐れがあります。

そうしたSNSを利用する我々が知っておくべき「著作権と肖像権」について、国士舘大学法学部の三浦正広教授に話を伺いました。

※本取材の内容は三浦正広教授の見解であり、必ずしも他研究者・医師等の見解と合致するものではありません。また研究が尽くされた分野とは限らず、取材当時の情報であることをご認識ください。

目次

三浦教授のこれまでの経歴をおしえてください

青山学院大学法学部で学士を取得した後、博士前期・後期課程に進みました。

その後、同大学法学部助手を務め、1997年、岡山商科大学法経学部の助教授に着任しました。

同大学で教授を経て、2006年から国士舘大学の法学部教授を務めています。

その間2000年と2012年の二度に渡って、ドイツのマックス・プランク研究所で在外研究を行いました。

 

現在のような分野に興味を持たれたきっかけはなんでしょうか

以前から民法や著作権法の研究をしていて、その中で触れた「人格権」に興味を持ちました。

そこで財産権と人格権が融合している肖像権や著作者の権利に関心を持ったことが、その後の研究につながっています。

 

そもそも興味を持たれた人格権とはどのような権利なのでしょうか

18世紀、欧米における市民革命以降、国王の絶対的な権力を抑えるために、私有財産制とか所有権といった近代市民法秩序が確立されるようになります。そこで確立されたもののひとつが、私法上の権利、私権です。

その当時に私権とは財産権が中心ですが、その後、産業革命を経て、現在の資本主義経済社会につながっているとされています。

 

産業革命期には、社会構造が大きく変化して社会の機械化が進み、人間性が阻害されるようになりました。

そこで人間の尊厳や人格が尊重されるべきであるという風潮が強くなり、そのような考え方が法律上は人格権として構成されました。

 

私権は、大きく「財産権」と「人格権」のふたつで構成されます。特に今回の肖像権であるとか著作権は、人格権として保護される分野です。

 

著作権とは簡単にいうとどのような権利でしょうか

一般的に著作権と呼ばれますが、正確には「著作者の権利」といいます。

著作者の権利は、財産権としての「著作権」と、「著作者人格権」のふたつの権利で構成されています。

財産権としての「著作権」は、著作物の利用に関する独占的・排他的な権利です。著作物の創作者である著作権者が独占的に有する権利ですので、著作物を利用するには著作権者の承諾を得なければいけない、強力な権利です。

一方で「著作者人格権」とは、著作者と著作物の関係性を保護する、精神的な権利をいいます。ちなみに精神的な権利を法律上の条文で保護しているものは、著作者人格権のみです。一般的な人格権は、あくまで判例上認められている権利に過ぎません。

 

「著作物と著作者の関係性の保護」とは何を守っているのでしょうか?

法律上具体的な権利として最も大切なものは、「同一性保持権」です。要は著作物を利用するにあたって、著作者に無断で改変してはいけないという権利が、同一性保持権です。

精神的な権利なので、「著作物は著作者の思い入れがある」と考え、無断で手を加えてはいけないとしています。手を加える場合には、著作者の同意が必要です。

 

著作権が発生する著作権の定義とはなんでしょうか

法律上の定義としては、著作権法2条1項の規定があります。

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

著作権法二条一項

著作権法の保護を受ける著作物に該当するかどうかについては、この定義規定にあてはめて解釈することになります。

もう少し簡単にいうと、人間が考えたアイデアを具体的に「文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」に表現したものが著作物ということになります。

また著作物は全く新しいものである必要がなく、同じような著作物が既にあったとしても、著作権で守られます。アイデア自体は著作物ではなく、アイデアにもとづいた具体的な表現が著作権法で保護される著作物ということになります。

ありふれたアイデアでも、その表現が異なっていれば、それは著作権で守られるのです。

わかりやすい例として、知的財産法の中に「特許法」がありますが、特許法の対象は発明であり、発明には「新規性」という要件があります。これまでにない全く新しいものでなければ、特許として保護されることはありません。

 

一般人が表現したものでも著作物として守られるものですか?

たとえば写真はだれでも容易に撮影することができますが、やはりプロのカメラマンが撮影した写真と、素人が撮影した写真とでは出来栄えが違っています。

でもそれは評価の問題であって、著作物という点ではどちらも同じです。

また著作権には、世界共通原則で「無方式主義」という考えがあり、権利の発生に手続きや方式を必要としません。

そのため音楽を作曲したり、小説を書いたりした時点で、著作権が発生します。

 

著作物は形として残すことが必要なのでしょうか

場合によっては、形に残らない著作物もあります。たとえば舞踊・ダンスの著作物です。踊りそのものは著作物ではなく、著作権法上は「実演」という行為に該当し、著作隣接権で保護されます。

少なくとも日本の著作権法では、固定されているという要件がないため、踊りの振付けそのものが著作物として保護されます。

実際には何かしらの形で残さないと証明が難しいので、裁判で争うといった場合に勝つことは難しいですが。

 

肖像権とは簡単にいうとどのような権利でしょうか

肖像権は自分の肖像の作成及び利用に関する、排他的・独占的権利といえます。

肖像とは

特定の人の姿や顔を写したもの。絵の場合には肖像画、写真の場合は肖像写真、彫刻の場合には肖像彫刻など。

肖像権は著作権と異なり、肖像権を保護する具体的な法律や条文はありません。あくまで判例法で認められる、権利のひとつです。

肖像の作成・利用については、肖像本人の同意が必要ということが大原則です。

 

肖像権とは誰でも既に持っている権利のひとつということでしょうか?

そうですね、肖像権は基本的な人権のひとつで、人であれば誰もが持っている権利のひとつです。

 

一般人と著名人の肖像権はやはり異なりますか?

肖像権にも、いくつかの性質があります。人格権の側面と、財産権としての側面です。

人格権的側面では一般人も著名人も変わりませんが、財産的側面で見ると、一般人と著名人の肖像権の扱いは異なります。人格権の側面は、肖像本人の人格・精神的な部分を保護しています。

わかりやすい例でいうと、無断での撮影はプライバシーの侵害になるため、人格権の側面として肖像権で守られています。

 

それに対して財産権の側面は、肖像が持っている経済的な利益を保護しているため、一般人と著名人では異なります。パブリシティ権などと呼ばれることもありますね。

一般人でもパブリシティ権がないとは思いませんが、やはり著名人のものと比べると、商業的価値が低いため同じ扱いとはいえません。

 

SNSでドラマやアニメ、音楽などの画像・動画・音声を掲載して感想いうことは著作権侵害になりますか?

かなり微妙な問題になります。そこで使用するものが、著作物かどうかということが問題です。著作物であるとするなら、無断で使用した場合、原則著作権侵害になります。

ただし著作権法では、無断で利用して良い場合が定められています。わかりやすいものとしては、「引用」でしょう。

引用として利用するためには、最低限でも「誰の著作物か」ということを表示しなければいけません。

少なくとも著作者名や、原作者名などが表示されていなければ、引用と主張することは難しいでしょう。

 

しかし近年、著作物の利用に関する考え方は、転換期にあるかもしれません。

インターネットでの利用されることを前提として、ルールが緩和される傾向にあります。

また引用について、最近興味深い判例がありました。「リツイート事件」と呼ばれているものです。

元の投稿が著作権侵害をしており、それをリツイートして自動的に複製された投稿が著作権侵害となるかどうか、というケースです。

第一審の東京地方裁判所では、「意図的ではなく自動的に複製・引用されたものなのでリツイートまでは著作権を侵害しない」と判断しました。

しかし第二審の知的財産高等裁判所では、「リツイートでも権利侵害の事実はあるので、著作権侵害になる」と判断し、最高裁判所もこれを支持した事例です。

私個人として、東京地裁は時代を読んだ判決をしたようですが、知財高裁や最高裁は「安易なリツイートはすべきではない」といった旨の判決かと解釈しています。

 

SNSで友人達との集合写真を勝手に載せた場合には肖像権侵害になりえますか?

場合によると思いますが、基本的には肖像権侵害になると考えるのが原則です。写真を撮る段階では、承諾を得ていると思いますが、利用に関する問題があります。

SNSでの公開といかないまでも、他人が見られる環境に掲示することだけでも、肖像権侵害になり得ます。ましてやSNSは誰でも見られる状態ですので、肖像権侵害になる可能性は高いです。

とはいえSNSに掲載したことを、友人本人が何も問いたださなければ、黙示の承諾があったと判断され、肖像権侵害にはならない場合もあると思います。

 

 

SNSで推しのタレントの写真を載せて褒めることは著作権や肖像権侵害になりますか?

著作権や肖像権の考え方からすると、褒めるとか誹謗するとかは関係なく、侵害になり得ます。

とはいえ受け手側のタレントが褒められているから良いと思った場合には、権利侵害として責任を追及される可能性は低いでしょう。

受け手が許せるかどうかというのは、大きな要です。

自分の作品が無断で利用されているとしても、かえって自分の作品がより広く知られるという場合に、権利侵害を主張しないことは大いにあり得ることです。

 

SNSで著作物を使用して感想を書いたことで訴えられることはありますか?

全部把握しているわけではありませんが、頻繁に起こっていることではないでしょうか。

裁判には至らないまでも、著作者から権利侵害になっていると言われて、投稿を削除されているケースは多いかと思います。

著作権侵害をしてしまっている側も、悪意があってやっている場合ばかりではないので、そこで学んで、謝罪をする、投稿の削除をするということもあるはずです。

 

著作権や肖像権の侵害をしてしまった場合はどうすべきでしょうか

自分で気づいた場合や、誰かに指摘された場合のいずれでも、迅速に侵害行為を止めることでしょう。

著作者や肖像本人に権利侵害を指摘された場合には、まず掲載を取り下げることです。

しかし指摘されたにも関わらず行為を改めない場合には、法的手段をとられてしまう等のややこしいことになってしまうこともあります。

 

逆に著作権や肖像権を侵害されてしまった場合にはどうすべきでしょうか

これもまずは、著作権や肖像権侵害をしている人に対して、権利侵害をしないようにと要求するべきでしょう。

しかし先ほどのリツイート事件の例でいうと、インターネット上では匿名性から直接侵害者に要求をすることが難しくなります。

その場合には、誰が権利侵害をしているか明らかにするため、発信者情報開示請求をしなければいけません。

【関連記事】発信者情報開示請求とは|手続きの流れや期間などの基礎知識

 

SNSでの投稿で利用した写真に写り込んだものは肖像権侵害になりえますか?

2014年に著作権法が改正され、たとえば写真の背景にある絵画や、動画内で入り込んでしまったBGMなど、著作物が写り込んだ場合は著作権侵害になりません。

改正前までは、それらについても著作権侵害だと判断されていました。

報道の場合に限り、写り込みは例外として認められている程度でした。肖像権については、肖像本人を認識できる程度に写り込んでいる場合は肖像権侵害の可能性があります。

 

 

デザインに価値がある服や靴を身に着けてSNSに写真を掲載した場合はどうでしょうか?

たとえば服や靴は、著作権で守られているものではありません。これはブランドになるため、商標といった産業財産権によって保護されていることがあります。

またあくまで服や靴を紹介することが目的ではなく、身につけている自分自身の紹介、自分自身の表現が目的になるので、権利侵害になる可能性は極めて低いと考えられます。

 

著作権や肖像権のルールは昔と比べて変わっていますか?

昔の著作権や肖像権の基準からすると、現在のこうしたトラブルはアウトになることが多いですが、その基準はどんどん変わってきています。

そうした面も含め、ネット上での肖像や著作物の利用はどうあるべきか考えなければいけない時代だなと思います。

昔の基準に照らし合わせて禁止してしまうと、インターネットというメディアの発展が阻害されることにもなりかねないので、それは避けるべきです。

著作権や肖像権は守られるべきだと思いますが、時代とともに変わっていく部分もあるとも考えています。

いきなりブレーキを外すのは違いますけどね(笑)

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この記事の監修者
当社在籍弁護士
弁護士登録後、地方で一般民事・家事、刑事事件を中心に様々な案件を手掛ける。次第に司法アクセスの改善に課題を感じ、2020年に当社に入社。現在インハウスローヤーとして多方面から事業サポートを行う。

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ベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)編集部
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本記事はベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。