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その他 公開日:2020.10.15  更新日:2020.10.15 弁護士監修記事

【専門家に聞く】インターネットが身近になったことによる子どもの変化

平成30年の統計では、全世帯の80%以上がインターネットを利用しています。

これは運転免許証の所持率を超えた数値であり、ほとんどの人が利用していると考えて良いでしょう。

インフラのひとつといっても過言ではないインターネットが家庭に普及することで、子どもたちにもさまざまな影響を与えています。

ネガティブなイメージがついてしまう「子どもたち」と「インターネット」ですが、教育現場に活用できる可能性を秘めており、上手に機能することで、さまざまな恩恵を受けられます。

子どもたちとインターネットの関わりについて、教育とインターネットについて研究をしている東北学院大学の稲垣忠教授に話を伺いました。

【情報参照】平成30年版 情報通信白書|総務省

 

稲垣教授のこれまでの経歴をおしえてください

tohoku_gakuin_university金沢大学の教育学研究科を修了し、その後2003年に関西大学で情報学の博士号を取得しました。

博士号取得後は東北学院大学で教鞭を執りつつ研究を進め、現在に至ります。

東北学院大学に着任した当時は教養学部人間科学科におりましたが、2018年からは文学部教育学科に移籍しました。

また今年からは、学長特別補佐に任命され、コロナ禍での全学オンライン授業の体制づくり等にも取り組んでいます。

稲垣忠教授関連書籍

学校間交流学習をはじめよう(2004-三晃書房) 稲垣忠編著

学校アップデート(2020-さくら社) 堀田龍也・稲垣忠ら共著

デジタル社会の学びのかたち(2020-北大路書房) 稲垣忠編訳

 

現在の研究分野に興味を持たれたきっかけをおしえてください

現在の研究分野は、教育工学という名称になります。エデュケーショナル・テクノロジーの日本語訳です。

ICTなどのテクノロジーを、どのように教育に活かすのかというイメージをもたれがちですが、ICTだけではなく、授業をどのように組み立てるのか、学習支援のための環境をどうデザインするのかも含む領域です。

私は、小中高の教員・子どもを対象とした研究がメインです。

きっかけとしては、総合情報学研究科の博士課程での研究が挙げられます。

小学生の子どもたちがテレビ会議システムなどを活用して学習する学校間交流学習のプロジェクトを、NHKと連携してサポートしていました。

そのプロジェクトに強くリアリティを感じたのです。

一般的な授業は先生が正解を知っていて、子どもは先生に向けて学びがちですが、交流学習をすることで、離れた地域の同年代の子どもたちが議論を通して共通理解を作る学びは、正解がなく、新たな学びになり得ると感じ、興味を持ちました。

 

インターネットが身近になり現代の子どもたちは昔とどう変わりましたか

Elementary_school_students_smartphoneインターネットやパソコンの整備など、昔の学校は社会でも先進的なことを行っていました。古くはテレビなども、家庭よりも先に学校に整備され、その教育利用が進められてきました。

子どもたちが社会に出て活躍するのは10年後、20年後のことですから、学校は社会の中でも先進的な環境である必要があります。

 

しかしながら、2000年ごろを境に、携帯電話やスマホが家庭に普及したことで、家庭の情報環境が圧倒的に良くなりました。その結果、子どもたちは「学校外で得られる情報」が圧倒的に増えました。

明治時代の学校の創成期は、学校が最新の知識や情報を半ば独占的に提供していました。

現代では、学校の方がむしろ制限された情報にしかアクセスできず、子どもたちが自分で色々なことを調べられるので、学校の相対的な地位が下がってきたかと思います。

 

今回のコロナ禍では、学校が休校になっていても、学ぼうと思えば学べる教材やオンラインの学習環境が豊富にあることに気づいた子どもたちや保護者の方も少なくありません。

 

もう1つ、コミュニケーションの面で言えば、大人社会とのつながり方が変化しました。インターネットが普及する以前の「子どもたちにとっての大人」は、家庭・学校・地域にしかありませんでした。

しかし、ゲームを含め、SNS、YouTubeなどでのつながりは、場所や時間の制約がないコミュニケーションを実現しています。

子どもたちが誰とどんなコミュニケーションをとっているのか大人から把握しづらくなりましたし、匿名の他者やなりすまし等も含めれば、子どもたち自身も誰とつながっていて、どんなコミュニケーションを望んでいるのが分からなくなってきているように見えます。

 

現在の日本の教育においてインターネットはどのように活用されていますか?

Middle school students and computers.インターネット=Webと限定するなら、コンピュータ室等での調べ学習の対象として活用されるのが一般的です。

一方で学校や自治体でフィルタリングをかけているところも多く、調べようとしたことが見られないなどの制約がありますね。

ただし、GIGAスクール構想による一人一台環境の整備が、今年度中にすすめられる予定にあるので、こうした環境も激変するのではないかと考えています。

GIGAスクール構想とは

児童1人1台端末と、高速通信ネットワークの整備によって、多様な子どもたち一人ひとりに最適化された教育環境の構想。GIGAとはGlobal and Innovation Gateway for Allの略。

 

GIGAスクール構想では何がどう変わりますか?

これまではコンピュータ室で調べること中心でしたが、これからは教室からいつでもつながるため、ネット上での共同作業を行うこともありますし、学習履歴を蓄積することで教師がデータをもとに必要な指導を行うといった個別最適化も実現します。

また1人1台の端末を持つので、自分でアカウントを持つことになります。

IDやパスワードを管理する必要があるため、セキュリティやインターネットとの付き合い方なども学校教育の中でよりいっそう学習する必要があります。

 

そうした取組は今後どのように日本に影響を与えますか?

端末やアカウントはあくまで環境整備です。教育という面では、どういう力を子どもたちが身につけるか、ということが大事になるかと思います。

学習指導要領は、2020年度から小学校、中学校、高校と順次実施されていきます。

学習指導要領とは

文部科学省が告示する、初等教育・中等教育での教育課程の基準。公立・私立ともに適用されるが、特に公立学校に強く影響する。教育課程の中で何を教育していくか、ということのガイドラインのようなもの。

その中で「学習の基盤となる資質・能力」という、すべての教科のベースになる力として、情報活用能力が明記されるようになりました。

情報活用能力には、子どもたちがパソコンを日常的に使うスキルも含まれますし、情報を取捨選択するための判断力や、発信の際のマナー、動画やプレゼン作りのスキル、プログラミング教育なども含む、情報社会で生きていくために必要な力全般を指します。

 

現代社会で我々が大量の情報とどう付き合うか、コンピュータやインターネットをどう活用すべきか、といったことを、小学校段階から経験しながら学んでいくことになります。

これまでの日本の教育現場でのICT活用は、世界でも最下位を独走するような状況でした。ようやく、世の中並みに使っていこうという状況になってきたかなと思います。

少なくともテクノロジーに対して、子どもたちがアレルギー反応を起こさずに、道具として使えるようになるかなと思います。

その中で自分の求めるものに応じて、クリエィティブなことをしたり、深く探究したり、ビジネスを興したりといった、発展につながればいいなという感じですね。

 

諸外国でインターネットを活用した教育制度をおしえてください

Children and computers abroad教育制度となると、授業で何をするかよりも、学校の仕組みをインターネットがどう支えるか、変えていくのかという視点で考える必要があります。

たとえばアメリカでは、バーチャルハイスクールを提供している企業や団体があります。普通の高校に通いつつ、カリキュラムの一部としてバーチャルハイスクールの授業を受けて、単位を取得・補完するといった制度です。

 

また、オーストラリアやアメリカなど、国土が広大なところでは、すべての子どもたちに通いやすいところに学校があるとも限りません。

以前から遠隔教育が盛んでしたが、ホームスクーリングにも、インターネット上の教材やホームスクーリングを取り入れている家庭どうしがつながるサービスなども盛んです。

 

子どもがいる家庭では、どのようにインターネットを教育に活用できますか?

Family looking at the tablet学校では主に標準的なことを教わるので、家庭でできることとしては「興味・関心を追究する手段」として、活用できることです。

 

たとえば私の家には娘がいますが、星が大好きで、オンラインの天文講座を受けたりしています。

本を読んだりもしますが、天文台で仕事をしている人の話を直接聞いたり、質問するといった経験はインターネットが一気に身近にしてくれました。

自分が興味を持ったことをどんどん調べたり、突き詰められたりできる環境は、良いことだと思います。

 

学校では多くの場合、みんなで同じことに取り組むので、一人ひとりに合った学びをとことんする場所というよりも、共通の体験をしたり、それぞれに取り組んでいることを共有・交流したりする場所だと言えます。

GIGAスクールでは、家庭で追究したり、創作したりしてきたことを学校で交流するといった学びのつながりが、これまで以上に豊かになっていくことが期待されています。

 

そうした経験を積み重ね、ネットを「娯楽のために受け身で使う道具・メディア」としてだけではなく、「学習のために主体的に使う道具・メディア」とみなすようになることが、子どもたちの将来のキャリアを切り開いていくにも重要だと考えます。

 

親自身のインターネットに関する知識も大事になりそうですね

保護者の方の知識不足や不慣れ、不安などもあるかとは思いますが、実際に子どもがネットをどのように使い、何を楽しんでいるのかを知るところからかと思います。

 

子どもたちは何もトラブルに巻き込まれるためにネットを使っている訳ではありません。

何が子どもたちのモチベーションなのか理解しないまま、「こんな危ないことがある」と伝えるだけでは、自分を成長させる道具としてネットを使っていこうとは思わないでしょう。

 

コロナ禍では、オンラインでミュージシャンのライブや、家庭でできるさまざまな趣味や暮らしの工夫が沢山紹介されました。

保護者の方自身も、自分の楽しみや学びにつながるオンラインサービスを体験しておくこともオススメします。

 

まとめ

インターネットは非常に便利なものですが、これまでインターネットを活用した教育は、世界的に十分なものとはいえませんでした。

GIGAスクール構想によって、インターネットの正しい使い方や、自分の目的のためにどう活かすかを子どもたちがわかることで、より多様な進路・学習が期待できます。

学校教育ではそうした使い方を学習し、家庭では興味の追及をさせてあげることによって、子どもたちが夢を叶えられるような教育環境を目指せるかもしれません。

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この記事の監修者
当社在籍弁護士
弁護士登録後、地方で一般民事・家事、刑事事件を中心に様々な案件を手掛ける。次第に司法アクセスの改善に課題を感じ、2020年に当社に入社。現在インハウスローヤーとして多方面から事業サポートを行う。

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ベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。