他人の姿を映した動画を勝手に撮影すると、肖像権侵害の責任を問われるおそれがあります。
肖像権侵害は犯罪ではありませんが、損害賠償責任を負うことがあるので注意が必要です。
本記事では、勝手に動画を撮った場合に負う法的責任について解説します。
他人の姿を、相手の承諾を得ず勝手に動画で撮影すると、肖像権の侵害に当たることがあります。
肖像権侵害は犯罪ではありませんが、慰謝料の支払いを求められる可能性があるのでご注意ください。
「肖像権」には「人格権」と「パブリシティ権」が含まれています。
他人の動画を勝手に撮影する行為は、肖像権のうち人格権の侵害に当たる可能性があります。
また、有名人の動画を勝手に撮影して商業的に利用すると、パブリシティ権の侵害に当たる可能性があります。
他人の肖像権(人格権・パブリシティ権)を侵害すると、撮影相手などから損害賠償を請求されるおそれがあるので注意が必要です。
肖像権侵害は他人の権利を違法に侵害する行為ですが、犯罪ではありません。
したがって、他人の動画を勝手に撮影したとしても、性的な動画を盗撮した場合(後述)などを除き、刑罰を科されることはありません。
肖像権のうち、人格権の侵害を受けた被害者は、撮影者に対して慰謝料を請求できます。
人格権侵害による慰謝料の金額は、10万円から50万円程度が標準的です。
なお、他人のパブリシティ権を侵害した場合には、慰謝料以外に営業上の損害についても賠償を請求されることがあります。
パブリシティ権の侵害による営業上の損害は、数百万円以上に及ぶケースもあるので注意が必要です。
勝手に動画を撮る行為が肖像権侵害に当たるかどうかは、以下に挙げる基準などによって判断されます。
肖像権侵害は、無許可での撮影や撮影した画像の公開がなされた場合に限って問題となります。
被写体の人から許可を得たうえで動画を撮影し、または撮影した動画を公開する行為については、肖像権の侵害が問題になることはありません。
肖像権の侵害は、人の容ぼうを無断で撮影する行為や、無断で撮影した画像を公開する行為について問題となります。
被写体とされる人にピントが合っていない動画や、被写体とされる人が隅に映り込んでいるだけに過ぎない動画については、肖像権侵害の責任を問われる可能性は低いでしょう。
これに対して、被写体とされる人が鮮明に映っている動画については、勝手に撮影・公開すると肖像権侵害の責任を問われることがあります。
肖像権のうち人格権の侵害に当たるかどうかは、撮影による人格的利益の侵害が社会通念上受任の限度を超えるかどうかによって判断されます。
撮影による人格的利益の侵害が社会通念上受任の限度を超えるかどうかは、さまざまな要素を総合的に考慮したうえで判断されますが、その中でもどのような場所で撮影されたかが大きく影響します。
公共の場で動画を撮影する行為については、ほかの人からも見られている姿を撮影されたに過ぎないので、肖像権侵害が成立しないケースが多いです。
これに対して、自宅やホテルの居室など、プライベートな空間における動画を勝手に撮影した場合は、肖像権侵害の責任を問われる可能性が高いと考えられます。
公共の場において撮影した動画であっても、撮影の目的に悪意が認められる場合には、撮影による人格的利益の侵害が社会通念上受任の限度を超えるものとして、肖像権侵害の責任を問われるおそれがあります。
たとえば、被写体の人を悪意のある形でからかうため、動画サイト上にアップする動画を勝手に撮影した場合などには、肖像権侵害が成立する可能性が高いでしょう。
また、動画撮影の構図についても、悪意が認められる場合は肖像権侵害が成立する可能性が高いです。
たとえば、被写体のモデルを極端なローアングルで撮影するような行為は、肖像権侵害の責任を問われる可能性が高いと考えられます。
肖像権のうち人格権の侵害は、単に勝手に動画を撮影するだけでも成立することがありますが、撮影した動画を勝手に公開した場合には、権利侵害が認定される可能性が高まります。
特に、ユーザー数が多く拡散性の高いメディアで勝手に撮影した動画を公開した場合には、撮影による人格的利益の侵害が社会通念上受任の限度を超えるものとして、肖像権侵害の責任を問われる可能性が非常に高いと考えられます。
肖像権のうちパブリシティ権の侵害は、撮影した有名人の動画などを勝手に公開することが要件となります。
パブリシティ権の侵害との関係でも、拡散性の高いメディアで勝手に撮影した動画を公開すると、より多額の損害賠償責任を負う可能性が高いでしょう。
パブリシティ権は、氏名や肖像などが持つ顧客誘引力を商業的に利用する権利です。
顧客誘引力は、基本的には有名人などファンがいる人が持っているものです。
したがってパブリシティ権の侵害は、主に有名人の動画などを勝手に撮影・公開する行為について問題となります。
被写体の人の知名度が高ければ高いほど、パブリシティ権の侵害によって多額の損害賠償責任を負う可能性が高くなります。
なお、肖像権のうち人格権の侵害については、被写体の人の知名度などにかかわらず成立する可能性があります。
パブリシティ権の侵害は、有名人などを撮影した動画などを商業利用の目的で公開した場合に限って問題となります。
商業的な目的がなく動画を公開したに過ぎない場合は、パブリシティ権の侵害は成立しません。
これに対して、肖像権のうち人格権の侵害については、勝手に動画を撮影した目的の如何にかかわらず成立する可能性があります。
動画撮影に当たって他人の肖像権を侵害しないようにするためには、以下の各点に十分注意しましょう。
相手の許可を得たうえで動画を撮影・公開すれば、肖像権侵害が問題になることはありません。
動画を撮影・公開する際には、原則として事前に相手の許可を得ることが望ましいでしょう。
ただし、報道目的の場合などには、どうしても相手の許可を得ることが難しいこともあります。
その場合は、次に解説する方法によって肖像権侵害を回避しましょう。
撮影した動画を公開する際には、被写体が誰だか特定できないように加工すると、肖像権侵害が成立する可能性は低くなります。
実名報道が必須である場合などを除き、被写体を特定できない程度に動画を加工したうえでアップロードするのが無難でしょう。
ただし、加工によって動画の公開による肖像権侵害のリスクが低くなったとしても、撮影行為について肖像権侵害が成立するリスクは残るので注意が必要です。
肖像権のうち人格権の侵害は、撮影による人格的利益の侵害が社会通念上受任の限度を超える場合に成立すると解されています。
受忍限度を超えるかどうかは、以下の事情を総合的に考慮したうえで判断されます(最高裁平成17年11月10日判決)。
動画撮影による肖像権侵害を回避するためには、上記の受忍限度に関する考慮要素を踏まえたうえで、被写体の人格的利益の侵害を緩和するように配慮することが大切です。
一例として、以下のような対応をすることが考えられます。
上記のような対応を十分に講じて、動画の撮影・公開による肖像権侵害の回避に努めましょう。
他人の動画を勝手に撮影する行為については、肖像権侵害以外にも以下の権利侵害や犯罪が問題になることがあります。
動画撮影の目的や方法によっては、これらの権利侵害や犯罪の責任を問われるおそれがあるので十分ご注意ください。
他人の著作物(絵画、書籍、音楽、映像など)の動画を無許可で撮影した場合には、著作権の一つである「複製権」の侵害に当たることがあります(著作権法21条)。
また、実演家(ミュージシャン、俳優など)の実演を無許可で動画に撮影した場合は、著作隣接権のうち「録音権」「録画権」の侵害に当たることがあります(著作権法91条)。
著作権や著作隣接権を侵害した場合、権利者から差止請求(著作権法112条)や損害賠償請求(民法709条)を受けるおそれがあります。
さらに、著作権や著作隣接権を侵害した者は「10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」に処され、または懲役と罰金が併科されることがあるので注意が必要です(著作権法119条1項)。
撮影禁止とされている施設において、管理者の許可を得ずに動画を撮影する行為は、施設管理権の侵害に当たる可能性があります。
施設管理権を侵害した者は、不法行為に基づき、管理者などに生じた損害を賠償しなければなりません(民法709条)。
正当な理由がないのに、ひそかに他人の性的姿態等(性的な部位や下着など)を撮影した場合は、「性的姿態等撮影罪」の責任を問われるおそれがあります(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律2条)。
性的姿態等撮影罪の法定刑は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」です。
また、ひそかに撮影した他人の性的姿態等の映像について、コピーを提供する行為・映像を保管する行為・映像を送信する行為・送信を受けた映像を記録する行為についても、同法に基づく処罰の対象になります。
勝手に動画を撮ることが罪になるか否かに関連して、よくある質問と回答をまとめました。
他人の勝手に動画を撮る行為が、常に肖像権(人格権)の侵害に当たるとは限りません。
動画撮影が肖像権(人格権)の侵害に当たるかどうかは、撮影による人格的利益の侵害が社会通念上受任の限度を超えるかどうかによって判断されます。
たとえば正当な報道の目的により、公の場で政治家などの公人を撮影する場合は、特段の事情がない限り肖像権(人格権)の侵害は成立しないと考えられます。
ただし、動画撮影が受忍限度を超えるかどうかの判断基準は一義的でないため、自分の認識に反して肖像権侵害が成立してしまうリスクがあります。
そのため、どうしても許可を得ることが難しい場合を除いて、他人の動画を撮影する際には本人の許可を得ることが望ましいです。
やむを得ず無許可で撮影する場合は、肖像権侵害に関する受忍限度の考え方を踏まえて、どこまでなら許されるかを事前によく検討してから撮影に臨みましょう。
被写体の顔が映っていないことにより、被写体を特定できない状態になっていれば、肖像権侵害が成立するリスクは低くなります。
ただし、顔以外の情報によって被写体を特定できる場合は、肖像権侵害が成立する可能性があるので注意が必要です。
また、動画の公開が肖像権侵害に当たらなくても、動画を撮影する行為自体が肖像権侵害に該当するケースもあるのでご注意ください。
公共の場での動画撮影は、プライベートな空間における動画撮影に比べると、肖像権の侵害に当たるリスクは低いと考えられます。
しかし、公共の場であれば動画撮影が常に肖像権侵害に当たらないわけではありません。
撮影の目的に悪意がある場合や、撮影方法が非常識なものである場合などには、肖像権侵害に該当して損害賠償責任を負うことがあるので注意が必要です。
肖像権侵害に当たるかどうかは、撮影の場所が公共の場であるか否かだけでなく、さまざまな事情を総合的に考慮したうえで「受忍限度」を超えているかどうかによって判断されます。
「公共の場なら撮影してもよい」と軽々しく考えずに、撮影された相手がどのような気持ちになるかをよく考えて、撮影の方法などを最大限配慮しましょう。
勝手に動画を撮る行為は原則として犯罪に当たりませんが、肖像権侵害によって被写体の人などに対する損害賠償責任を負うことがあります。
プライベートな空間における無断での動画撮影や、悪意のある目的・方法による動画撮影は避けましょう。
他人の動画を勝手に撮影したことが原因で、損害賠償を請求されるなどトラブルが発生した場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
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