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営業秘密(えいぎょうひみつ)とは、一般的には、企業が事業活動の中で取得する情報で企業外への開示を予定していない情報を指します。しかし、企業秘密を保護対象とする不正競争防止法で保護される『営業秘密』といえるためには、厳格な要件を満たす必要があります。
営業秘密は、企業にとって重要な資産になり得るものです。適切な管理と保護措置をするためにも、きちんと押さえておきましょう。
この記事では、営業秘密の基本的な定義から漏えいリスク、営業秘密を守る方法などについてご紹介します。
どのような情報が不正競争防止法で保護される営業秘密に当たるのでしょうか。
法律上の定義をみていきます。
不正競争防止法第2条6項では、以下のように定義されています。
この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。
引用:不正防止法第2条
つまり、『営業秘密』といえるためには、
これら3つの要件が必要とされているのです。
そのため、たとえ社外秘の営業マニュアルや顧客情報であっても、これが秘密として管理されていると客観的に認められない場合(管理ルールが漠然としていたり、アクセス可能な範囲が限定されていないなど)、一般的な営業秘密とはいえても、法律上保護される『営業秘密』には該当しないということはあり得ます。
このように、企業にとっていかに重要な情報でも、その管理の仕方を誤れば、十分な保護を受けることができないということは、押さえておきたいところです。
不正の利益を得るため、または営業秘密の保有者に損害を加えるために、営業秘密を不正に取得、使用、開示した場合は、不正競争防止法の禁止する不正競争行為として民事・刑事双方の責任を問われる可能性があります。
不正競争防止法の定める罰則は10年以下の懲役・2000万円以下の罰金刑など重く、仮に刑事責任を問われる行為に及んだ場合、重大な不利益を受ける可能性があります。
企業にとって重要な技術やノウハウなどを不正競争防止法の定める『営業秘密』として保護するためには、上記のとおり『3要件』(『秘密管理生』『有用性』『非公知性』)を満たしていなければなりません。
この項目では、それぞれの要件についてご紹介します。
保護したい情報が会社の中できちんと秘密として管理されているかという要件です。
秘密として管理する体制があることは当然ですが、従業員等が当該情報が秘密であることを明確に認識可能であること重要です。
当該情報が営業または技術上、役立つかどうかという要件です。
実際に利用されていなくても、その情報が客観的にみて、経費の節約や経営、業務効率の改善などにつながるものであれば有用性があると評価されます。
当該情報がおおやけに知られていないかどうかという要件です。
情報保有者の管理下以外では情報が入手できず、一般公開されていないものであれば該当します。仮に他社が研究・開発などで自社と同じ情報を保有していた場合でも、秘密として管理されていればお互いに非公知といえます。ただし、特許として公開した場合、非公知性はなくなります。
では実際に、企業ではどのように営業秘密を管理し、活用しているのでしょうか。また、発生する可能性のある違反事例もあわせてみていきましょう。
とある機械メンテナンスサービス会社では、訪問先の工場に散在する機械のカタログや図面、経年劣化の具合、修理工程などをすべてデータとして収集し、蓄積。さらに、文章化した作業ノウハウを知的資産として共有することで、修理前よりも機械能率が向上するメンテナンスサービスと評判に。
文章化したノウハウには、発案者である社員名も明記。従業員のやる気だけではなく、当事者意識も向上し、同業他社への転職抑制にもつながりました。
社長自らが知財の重要性を認識し、社内で知財戦略を立案。コア技術となる製法や原材料情報は秘密情報として管理し、社内でも開示制限をかけて秘匿化。海外の生産工場には調合済みの原料を供給することで、海外への技術の流出も防止。
高い競争力を維持したまま、世界シェアトップのグローバルな生産体制を実現しました。
技術の重要度や性質に応じて、特許出願や社内のアクセスコントロール、他社との秘密保持契約締結による提供など、管理手法を柔軟に決定。
秘密とする情報の範囲を適切に判断し、重要度の高いノウハウは社内でも厳重なアクセス制限をかけました。一方で、食材生産者の収益向上、認知度拡大など地域活性化につながるプロジェクトに関しては、自社の技術を無償公開することで貢献。独自技術を保護しながら、協力・連携の拡大、他社との差別化を実現しています。
被害にあった企業の元社員が数億円の報酬と引き換えに、他社の社員と共謀して営業秘密を漏えい。20年以上かけて開発した製造技術や設計図などを持ち出しました。さらに、その後、別の競合他社にも再漏えいされていたことが発覚。
賠償請求と差止め請求の末、300億円で和解。この事例の他にも、報酬の有無にかかわらず、提携先や業務委託先から競合他社に情報が漏えいするケースがあるようです。
投資物件の販売を営む会社Aの従業員が退職する際、営業秘密である顧客情報を持ち出して独立。その後、持ち出した顧客情報に載っていた取引先に会社Aの信用を失墜させるような虚偽の情報を流布し、損害賠償請求が認められました(知財高裁2012年7月4日)。
2015年にあった、日本年金機構の個人情報が漏えいした事件。漏えいしたのは保有していた個人情報の一部だが、それでも漏えい件数は約125万件にのぼりました。
原因となったのは、『標的型メール』というサイバー攻撃。取引先などに偽装して、悪意のある添付ファイルやURLリンクをメール送信し、パソコンやスマートフォンをマルウェアに感染させるというものです。この事件では、職員がだまされて添付ファイルを開封し、マルウェアに感染。不正アクセスによって個人情報が外部に流出したことで、日本年金機構のセキュリティ意識が問われました。
どんな企業においても技術的、専門的なノウハウ、設計図などの資料、マニュアル、顧客情報などはすべて重要な知的財産です。
それらの営業秘密が外部に漏えいし、自社商品や営業手法を模倣されたり、取引先を奪われたりすれば、大きな経営リスクとなるでしょう。また、グローバル競争が激化している今、海外への情報流出も増えてきています。こうした営業秘密の漏えいは、企業、ひいては国内の技術発展にも悪影響を及ぼす可能性があります。
営業秘密が誰でもアクセスできるところにあれば、漏えいのリスクは当然高くなります。社内外問わず、営業秘密データへのアクセス権を制限することはもちろん、営業秘密を保管しているPCはインターネットに繋げずに使用するなど、営業秘密へのアクセス権が適切に管理されているか見直しましょう。
電子データはコピーしたり、外部へアップロードや送信したりすることが簡単にできてしまいます。社内での私物USBメモリの利用や持ち込み禁止や電子データの暗号化、外部へのアップロード制限など、持ち出しを困難にするルールを設けましょう。
営業秘密にかかわる作業手続きや保管体制が整備されていれば、心理的な抑止効果になるとともに、情報を万が一持ち出されてもすぐ気づくことができます。
そのためにはオフィスの整理整頓はもちろん、窓口を設けて営業秘密がある執務室への関係者以外の立ち入りを禁止したり、レイアウトを工夫したりすることも手です。その他にも防犯カメラの設置やPCの操作ログを取得するなど、営業秘密にかかわる作業を記録するのも効果的です。
『取り扱っている情報が営業秘密だと思っていなかった…』という事態を避けるためにも、営業秘密に対する認識を向上させましょう。自社の社員をはじめ、提携先や業務委託先にも周知させることが大切です。
営業秘密について研修をする、CD-ROMなどの記録媒体や資料に『マル秘』や『社外秘』マークを表示する、保管番所に無断持ち出し禁止の張り紙をするなど社内教育を通じて意識統一を図りましょう。他社と営業秘密を共有する場合は、必ず秘密保持契約を締結し、取り扱いのルールを策定することも重要です。
営業秘密を漏えいしようという悪意の中には、標的企業への不満を含んでいるケースがあります。『営業秘密を持ち出してやろう』という考えを起こさせないためにも、ワーク・ライフ・バランスを見直したり、社員間のコミュニケーションを活性化するイベントを企画したりして、働きやすい環境づくりを行うことも立派な対策です。
また社員一人ひとりをきちんと評価する制度を取り入れ、やる気を高めることも大切です。こうした労働環境を整備することで、会社と社員、そして社員同士の信頼関係が生まれ、当事者意識の向上にもつながります。
営業秘密が漏えいしてしまうと、経営だけでなく、会社の信頼にも大きく影響します。近年は、社員による持ち出しなど物理的な不正行為に加え、不正アクセスやマルウェア感染など、サイバー攻撃による漏えいも報告されています。
営業秘密をきちんと保護するためには、会社全体で管理体制を整え、社員の営業秘密への理解を深めることが大切です。
万が一営業秘密が漏えいしてしまったら、早期の対応が重要です。不安がある場合は日頃から弁護士に相談するなどして漏えいに備える体制を構築しましょう。
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