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生成AIを規制する法律とは?ビジネスで活用する前に知っておきたい基礎知識

監修記事

近年、デジタル化・ネットワーク化の要請が社会的に強まっていることから、「自社の事業活動や自分の副業に生成AIサービスを活用したい」というニーズが高まりを見せています。

生成AIをうまく活用すれば、ビジネスの合理化・効率化が実現され、収益性・業績が向上する可能性もあるでしょう。

その一方で、生成AI技術が開発・普及するスピードがあまりにも速いため、生成AI技術に対応した法規制や社会体制が確立されていないのが実情です。

そのため、生成AIは、システムの開発・学習段階から成果物の利用段階に至るまで、さまざまな法律との関係が問題になるケースが少なくありません

そこで本記事では、生成AIに関係する法律や生成AIをビジネスシーンなどで活用するときの注意事項についてわかりやすく解説します。

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生成AIサービスを本格的に導入したあとに法的トラブルに巻き込まれると、ビジネス面に甚大なデメリットが生じかねないので、事前にIT関係に強い弁護士に相談をすることをおすすめします。

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目次

日本における生成AIに関する法律

まずは、生成AIに関する日本の法律・制度設計状況について解説します。

直接規定する法律はない

2024年現在、日本には生成AI(Generative Artificial Intelligence)を直接規定する法律はなく、既存の法律を中心に解釈がなされており、AIに限定した法律は整備中の状態といえます。

もっとも、日本において生成AIに対する議論が一切おこなわれていないわけでもありません

たとえば、政府主導の動きとしては、2019年3月29日の統合イノベーション戦略推進会議における「人間中心のAI社会原則」、2022年4月の「AI戦略2022」が挙げられます。

AI技術の現状分析や社会的課題克服をするために、政府主導で議論が繰り返されて、生成AIなどに関する今後の方針が示されています

また、2023年5月26日には各業界の有識者で構成される「AI戦略会議」が開催され、AIに関する暫定的な論点整理がおこなわれました。

さらに、2023年6月9日、首相官邸の知的財産戦略本部が「知的財産推進計画2023」を策定し、生成AIと著作権問題の状況把握・解決方針の決定だけではなく、デジタル時代における具体的なコンテンツ戦略など、クリエイターなどの多様なプレイヤーが知的財産の利用価値を最大限引き出すことができる社会構築に向けた方針・取り組みが打ち出されています。

以上を踏まえると、現段階において生成AIについて直接定めた法律は存在しないものの、生成AIやデジタルコンテンツの普及を促進したり、これらの新しい技術によって生じ得る弊害を克服したりするために、現在進行形でさまざまな議論がおこなわれている状況だといえるでしょう。

現状は既存の法律を基に対応

生成AIサービスなどのデジタル技術が凄まじいスピードで開発・普及している現在、政府としては新しい法制度を制定して生成AIサービスに対応するのではなく、既存の法律を柔軟に解釈したり、細かく改正をしたりすることによって、デジタル技術の進展に対応する方針を提唱しています。

もっとも、生成AIサービスによる著作権侵害トラブルが急増しているように、今後の動向次第では、現在の法律の枠内だけでは対応できなくなる可能性があります

また、諸外国では生成AIなどをめぐる法制度が順次整備されている状況なので、どこかのタイミングで各国の動きと調和を図る必要があると考えられます。

ですから、今後生成AIに関する法律が日本でも制定される可能性はゼロではありません

生成AIを事業活動に取り込むことを検討しているのなら、常に政府の動向などをチェックしながら、どのような状況になっても事業活動に支障が生じないようなリスクヘッジを意識することが求められるといえるでしょう

日本の関係主要国における生成AIに関する法律

次に、ビジネスシーンで日本と深い関わりがある諸外国における生成AIに関する法律を紹介します。

米国| AI権利章典の作成、大統領令の署名

生成AI技術が急速にアメリカ社会に普及して大きな利益をもたらしている一方で、アメリカ国民の権利を脅かすような方法で利用されているケースが急増しています

そのため、アメリカではデジタル化による合理性・効率性と人権・民主主義の調和を早急に図る必要が生じました。

この状況を踏まえて、アメリカでは2021年10月から米国科学技術政策局が新たな権利章典の開発に着手し始めます。

そして、2022年10月、AIの時代にアメリカ国民を保護するためのAIを含む自動化システムの設計、使用、導入の指針となるべき5つの原則を特定し、「AI権利章典の青写真(Blueprint for an Al Bill of Rights)」を公表しました。

「AI権利章典の青写真」は、生成AIを含む自動化システムを構築してガバナンスする際に、アメリカ国民の人権を保護しつつ民主主義的価値を推進するための政策及び実践方法の開発のサポートを目的とした白書のことです。

既存の法律・法令・規則を修正するものではなく、法的拘束力はありません

「AI権利章典の青写真」で提唱されている5つの原則は、以下のとおりです。

  • 安全で効果的なシステム:ユーザーは安全でないシステム、効果のないシステムから保護されるべきである。
  • アルゴリズムに基づく差別からの保護:ユーザーはアルゴリズム由来の差別を受けるべきではなく、システムは公平に機会を提供する方法で利用・設計されるべきである。
  • データのプライバシー:ユーザーは、組み込みの保護機能を通じて不正なデータから保護されるべきであり、自身に関するデータがどのように使用されるかを知る権限をもつべきである。
  • ユーザーへの通知と説明:ユーザーは自動化システムが使用されていることを知り、それが自身に影響を与える結果に、どのようにして、また、なぜ寄与するのかを理解するべきである。
  • 人による代替手段・配慮・フォールバック:ユーザーは必要に応じて自動化システムの使用をオプトアウトすることができ、問題が生じたときに、その問題を迅速に検討して解決できる担当者に連絡する手段をもつべきである。

このような動向を踏まえてアメリカでは、米国連邦政府各機関で「AI権利章典の青写真」を推進し、アメリカ国民の保護を支援する取り組みを進める方針が採られています

なお、2023年に入ると、生成AIサービス事業者に対して著作権者が訴訟提起をしたり、米国脚本家協会・米国映画俳優組合がストライキを断行したりするといった、民間の動きが出てきています。

これを受けて、AI開発に関わる主要各社が政府と連携しながら自主規制に合意をしたり、バイデン大統領がAIの開発・利用に関する大統領令に署名したりするなどの対応が進められているのが実情です。

EU|2024年5月にAI規制法が成立、2026年から本格運用予定

2023年6月14日、欧州議会ではAI法案が採択されました。

その後、欧州理事会、欧州委員会及び欧州議会の三者による交渉を経て、2024年3月13日に、欧州議会がAI法案を採択します。

2024年5月21日には欧州理事会がAI法案を承認し、いわゆる「AI法(Artificial Intelligence Act)」が成立しました。

EUでは、2026年にAI法が本格的に運用される予定です。

AI法で制定されている代表的な内容は以下のとおりです。

  • プロバイダ開発者・提供者は、自然人と直接対話することを意図したAIシステムが、合理的に十分な情報をもち、観察力があり、慎重な自然人の観点から明らかな場合を除き、関係する自然人がAIシステムと対話していることを通知されるように設計・開発されることを保証しなければいけない。
  • 合成音声、画像、動画、テキストコンテンツを生成する汎用AIシステムを含むAIシステムのプロバイダは、AIシステムの出力が機械可読形式でマークされて、人為的に生成・操作されたものとして検出可能であることを保証しなければいけない。
  • ディープフェイクを構成する画像、音声、動画コンテンツを生成・操作するAIシステムの採用者は、そのコンテンツが人為的に生成・操作されていることを開示しなければいけない。
  • 公共の利益に関する事項を公衆に知らせる目的で公開されるテキストを生成・操作するAIシステムの採用者は、テキストが人為的に生成・操作されたことを開示しなければいけない。
  • 汎用目的AIモデルのプロバイダは、欧州著作権法を遵守するための方針(特に、欧州デジタル単一市場著作権指令に基づく権利のオプトアウトの表明を特定し、最先端の技術を通じて遵守するための方針)を導入しなければいけない。
  • 汎用目的AIモデルのプロバイダは、汎用AIモデルの学習に用いる内容について、AI室が提供するテンプレートに従って、十分に詳細な概要を作成・公開しなければいけない。

このように、EUでは生成AIなどに対する包括的な規制枠組みを先駆的に運用していることがうかがえます。

EUと経済的に繋がっている日本企業は非常に多いので、生成AIなどに関するEUの動向は今後日本の法制度などへも一定の影響を与えるでしょう

中国|生成人工知能サービス管理暫定弁法を施行、人工知能法も策定中

中国では、生成AIサービス管理暫定弁法が2023年8月15日より施行されました。

同法では、AIサービスの提供や利用の原則として、知的財産権や商業道徳を尊重して営業秘密を保護すること、他人の肖像権・プライバシー権などを侵害してはいけないことなどが規定されています

日本の法律では、AI開発・学習段階と生成・利用段階に分けて考える必要がある

日本の法律では、生成AIに関する明確な定義はされていませんが、一般的に「テキスト・画像・音声・映像などのコンテンツをさまざまなレベルの自律性をもって生成することを目的としたAIシステム」と表現することができます。

そして、生成AIと日本の法律との関係に注目するときには、生成AIをめぐる一連のプロセスに注目して以下の2段階を分けて考える必要があります

というのも、生成AIの段階に応じて生じ得る法律トラブルの内容や適用される法律の条文などが変わってくるからです。

生成AIの段階 内容
AIの開発・学習段階

✓著作物を学習用データとして収集・複製して、学習用データセットを作成する作業

✓学習用データセットを学習に利用して、AIを開発したりパラメーターを随時調整したりする作業

AIの生成・利用段階

✓AIを利用してコンテンツを生成する作業

✓生成したコンテンツを利用する作業(インターネット上への公表、販売 など)

現在の日本の状況は、「この2段階に対してそれぞれ現行法を適用して、生成AIをめぐる法的トラブルを解決する」という方針が採られています。

もっとも、諸外国で生成AIなどに対してさまざまな法規制が進められていることを踏まえると、今後日本でも生成AIなどに関する新しい法律が制定されたり、現行法制度が大幅に改正されたりする可能性もゼロではないといえます

これらの点からも、ビジネスシーンで生成AIの活用を検討しているのなら、現行法の改正状況や新しい立法などの動向に精通するために、定期的にIT関係の実務に詳しい弁護士と連携を取るべきだと考えられます

日本で生成AIと関係する法律①著作権法

まずは、生成AIと著作権法の関係について解説します。

著作権とその対象になるもの

著作権法において著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」と規定されています(著作権法第2条第1項第1号)。

著作物に該当するか否かは、以下4つの要件で判断されます

  • 思想または感情
  • 創作的
  • 表現
  • 文芸・学術・美術・音楽の範囲に属する

たとえば、著作権法上の「著作物」に該当するものとして、以下のものが挙げられます(著作権法第10条第1項各号)。

  • 小説、脚本、論文、講演、そのほかの言語の著作物
  • 音楽の著作物
  • 舞踊または無言劇の著作物
  • 絵画、版画、彫刻、その他の美術の著作物
  • 建築の著作物
  • 地図または学術的な性質を有する図面、図表、模型、そのほか他の図形の著作物
  • 映画の著作物
  • 写真の著作物
  • プログラムの著作物

AI開発・学習段階|「享受(楽しみ)」を目的とするか否かが問題

次に、生成AIの開発・学習段階で生じる著作権法上の論点について解説します。

生成AIの開発・学習段階では、インターネット上などにアップロードされている膨大な他人の著作物を「学習用データ」として収集・複製する作業がおこなわれます。

つまり、「無断で他人の著作物を学習用データ作成のために活用している点が著作権侵害に該当するのではないか」という問題が生じるということです。

この点について、近年の著作権法改正にともない以下のルールが定められています(著作権法第30条の4)。

  • 「享受」を目的としない利用については著作権者の許諾は原則不要
  • 「享受」を目的とした利用については著作権者の許諾が必要

「享受」とは、「著作物の視聴などを通じて、視聴者たちの知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為」のことです。

たとえば、「文章の著作物を閲覧すること」「プログラムの著作物を実行すること」「音楽・映画の著作物を鑑賞すること」などを目的とする場合は「享受」に該当すると考えられます。

これらを目的として生成AIを開発・学習する場合には著作権者の許諾が必要となり、許諾なしで使用すると著作権侵害を理由に法的責任を追及されることになります

一方、「情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、映像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析をおこなうこと)の場合」「著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発または実用化のための試験の用に供する場合」などについては、非享受目的であるとして、著作権者の許諾がなくても合法的に生成AIの開発・学習に他人の著作物を使用することができます

なお、情報解析などの非享受目的で著作物を生成AIの開発・学習に利用するケースでも、「必要と認められる限度を超えている場合」「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らして著作権者の利益を不当に害することになる場合」には、著作権者の許諾が必要です。

享受目的であるにもかかわらず著作権者の許諾なしで生成AIの開発・学習に著作物を使用した場合、著作権侵害を理由に(損害賠償請求、差止請求 など)・刑事責任(懲役刑、罰金刑 など)を追及されるリスクもあるため注意が必要です。

生成・利用段階|「類似性」と「依拠性」が問題

AIシステムで生成したコンテンツを利用する段階においても、著作権法との関係が問題になります

生成AIの利用段階の著作権法問題については、人の手によってコンテンツを生み出したケースと同じ考え方が適用されます。

著作権侵害の有無について、以下2つの要件を基に判断されます。

  • 類似性があるか
  • 依拠性があるか

第1に、類似性とは「後発の作品が既存の著作物と同一だったり、類似していたりすること」です。

たとえば、生成AIによって作成したコンテンツから他人の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるケースでは、類似性があると判断されるため、著作権侵害に該当します。

これに対して、アイデアが似ているだけ、創造性がない部分が共通しているだけ、というケースについては、類似性があるとは判断されません。

第2に、依拠性とは「既存の著作物に依拠して複製などがおこなわれたこと」を意味します。

たとえば、他人の著作物を模倣して類似する作品を作り出したケース、一般に知られた有名なコンテンツに類似した作品を制作したケースでは、依拠性があるために著作権侵害に該当すると判断される可能性があります

なお、類似性と依拠性が認定される事案でも、生成AIによって作成したコンテンツの利用が「権利制限規定」に該当する場合には、著作権者の許諾がない状況で生成AIによって作出したコンテンツを利用しても著作権侵害に問われることはありません

具体的には、個人や家庭内、これに準ずる限られた範囲内で「私的使用」するケース(著作権法第30条第1項柱書)、学校などの教育機関において授業の過程で使用するケース(著作権法第35条第1項)などが挙げられます。

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日本で生成AIと関係する法律②意匠法

ここでは、生成AIと意匠法の関係について解説します。

意匠法とは|デザインなどを保護するための法律

意匠法とは、意匠の保護・利用を図ることによって、意匠の創作を奨励して産業の発展に寄与することを目的とした法律のことです。

そもそも意匠とは、「物品の形状・模様・色彩(これらの結合物を含む)、建築物の形状・模様・色彩、画像であって視覚を通じて美感を起こさせるもの」を意味します(意匠法第2条第1項)。

物品などのデザインは誰でも視覚で捉えることができるため、簡単に模倣されるリスクがあります。

もっとも、無断で自由に誰もが模倣できる状態を放置すると、意匠の創作者が自身の意匠を活用して経済的利益を得ることができなくなるおそれがあります

その結果として、新たに創作活動をおこなう意欲が損なわれることに繋がってしまうでしょう。

そこで意匠法では、意匠の創作者に対して独占的な法的権利を与えることによって意匠創作を奨励するとともに、無許可の模倣を法的に禁止することによって産業の発展を促しています

それでは、生成AIは意匠法との関係でどのような法律問題を生じさせるのでしょうか。

ここでは、AI開発・学習段階と、AI生成・利用段階に分けて解説します。

AI開発・学習段階|特に問題になることはない

生成AIシステムの開発・学習段階と意匠法との関係を考える際には、意匠権者に認められる意匠権の範囲・効力を理解するのが重要です。

意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を占有します(意匠法第23条)。

意匠の「実施」をする権利については、意匠法第2条第2項各号にて以下のとおり定められています。

「実施」の種類 「実施」の内容
物品における「実施」 製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出、輸入、譲渡・貸渡しの申し出・展示
建築物における「実施」 建築、使用、譲渡、貸渡し、譲渡・貸渡しの申し出・展示
画像(画像を表示する機能を有するプログラムなどを含む)における「実施」 ✔作成、使用、電気通信回線を通じた提供、電気通信回線を通じた提供の申し出・展示
✔意匠に係る画像を記録した記録媒体や内蔵する機器の譲渡、貸渡し、輸出、輸入、譲渡・貸渡しの申し出・展示

つまり、生成AIシステムの開発・学習段階において、他人の登録意匠またはそれと類似する意匠を利用する行為は、上述のいずれの「実施」にも該当しないということです。

ですから、生成AIシステムの開発・学習段階については、意匠法との関係で法律問題を生じることはなく、少なくとも意匠法との関係上は、合法的に他人の登録意匠などをAI学習のために活用できると考えられます

生成・利用段階|登録意匠と類似と判断できるかどうか

AIシステムによって画像などのコンテンツを生成し、これを利用する段階については、他人の登録意匠などとの関係が問題になります。

生成AIの意匠権侵害についての考え方は、人の手によって画像などが作成されたケースと同様です。

具体的には、生成AIによって作出された成果物と他人の登録意匠を比較して、「物品の用途及び機能の共通性を基準として、物品が同一または類似と評価できて、かつ取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分において構成態様を共通にしており、形態が同一または類似と評価できるか否か」という基準・考え方に基づきます(東京地判平成27年2月26日、大阪地判平成29年2月7日 など)。

そして、生成AIの成果物の利用が意匠権侵害に該当すると判断されると、差止請求・損害賠償請求といった民事責任だけではなく、刑事告訴されて刑事責任を追及される可能性があります。

生成AIシステムの開発・学習段階では膨大な量の画像データなどを読み込んでいるので、生成AIシステムのユーザーが意図しなくても、画像・イラストなどの成果物が他人の意匠権を侵害する内容になっている可能性もゼロではありません

また、現在では、インターネット上に膨大な量の画像・デザインが流布しているため、生成AIシステムによって作成したコンテンツが他人の意匠権を侵害しているかを自分だけで判断することが難しくなっているのが実情です。

特に生成AIシステムを活用して画像・デザインなどを作成・利用する場合には、商業利用などをする前に弁護士へ相談をして、他人の意匠権を侵害するものではないかを調査してもらうことをおすすめします。

日本で生成AIと関係する法律③商標法

ここでは、生成AIと商標法との関係について解説します。

商標法とは|商標の保護により企業と消費者を守る

商標法とは、商標を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用を維持し、産業の発達と需要者の利益を保護することを目的とする法律のことです。

そもそも商標とは、「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状、色彩(これらの結合物を含む)、音その他政令で定めるものであって、業として商品・サービスを生産・提供などする者がその商品・サービスについて使用をするもの」を意味します(商標法第2条第1項)。

商標に該当する具体例として、企業や商品のロゴがあります。

ここでは、生成AIは商標法との関係で検討するべき法律問題について、AI開発・学習段階とAI生成・利用段階に区別して解説します。

AI開発・学習段階|特に問題になることはない

商標法上、商標権者は指定商品または指定役務について登録商標の使用をする権利を専有することが認められています商標法第25条)。

そして、他人の登録商標(登録商標と類似する商標を含む)が含まれるデータを生成AIの開発・学習段階で使用する行為は、商標権者が専有する「指定商品または指定役務について登録商標の使用をする権利」には含まれないと考えられます。

したがって、生成AIの開発・学習段階については、商標法上の法律問題が生じることはなく、商標権者の許諾がなくても、学習データとして他人の登録商標を利用することができます

生成・利用段階|消費者が混同しないかどうか

一方、生成AIシステムによって作出したコンテンツを利用する段階については、商標権侵害との関係で注意しなければいけません

生成AIで作成したコンテンツの利用が以下2つの要件を満たす場合、生成AIサービス利用者は商標権侵害を理由に民事責任・刑事責任を追及される可能性があります。

  • 登録商標またはそれと類似する商標を、指定商品・指定役務またはそれと類似する商品・役務について使用したこと
  • 商標的使用をしたこと(自社の商品・役務であることを需要者に示す形で商標を使用したこと)

つまり、生成AIによるコンテンツと他者の登録商標を比較したとき、両者の外観、称呼、観念、具体的な取引状況などを総合的に考慮した結果、消費者・需要者が出所を混同するおそれがある場合には、商標権侵害が生じていると判断されます

日本で生成AIと関係する法律④不正競争防止法

最後に、生成AIと不正競争防止法との関係について解説します。

不正競争防止法とは | 事業者間の公正な競争維持を目的とした法律

不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置などを定めることによって、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です。

生成AIとの関係で注目するべき「不正競争」として、以下2つの行為類型が挙げられます(不正競争防止法第2条第1項第1号・第2号)。

  • 他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用などすることによって、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為(周知表示混同惹起行為)
  • 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一・類似のものを使用などする行為(著名表示冒用行為)

これらを踏まえたうえで、生成AIと不正競争防止法との関係について、生成AIの開発・学習段階と生成・利用段階に分けて解説します。

AI開発・学習段階|特に問題になることはない

まず、生成AIシステムの開発・学習段階において不正競争防止法との関係で法律問題を生じることはありません

というのも、他人の商品等表示が含まれるデータを学習用素材としてAIの開発・学習段階に利用する行為は、需要者が混同するリスクもなければ、自己の商品等表示として使用しているともいえず、不正競争防止法が禁止している不正競争には該当しないからです。

ですから、生成AIシステムを開発・学習する段階では、誰でも自由に他人の商品等表示が含まれるデータを活用できると考えられます

生成・利用段階|ほかの商品表示などと同一・類似のものを使用しているか

これに対し、AIシステムの生成・利用段階については不正競争防止法との関係が問題になり得ます。

というのも、AIシステムにより生成したコンテンツの利用方法次第では、不正競争防止法が禁止行為に掲げる周知表示混同惹起行為・著名表示冒用行為に該当する可能性があるからです。

一般需要者が混同するか否か、他人の商品等表示との類似性があるか否かについては、個別具体的な事案の状況や成果物の特徴などを総合的に考慮して判断されます。

生成AIを利用したコンテンツをビジネスシーンで活用したあとに不正競争防止法違反の疑いをかけられると、民事・刑事の両面での対応を強いられかねません

自社の商品・サービスなどについて生成AIシステムを活用した画像などを使用する際には、ローンチ前に知的財産案件や不正競争防止法関係の実務に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

さいごに|生成AIと法律については今後も注目を

日本では、生成AIに関する法規制のあり方についてまさに議論が進められている段階です。

現行の著作権法や意匠法などを柔軟に解釈したり適宜改正をしたりすることによって生成AIをめぐる法律問題に対応しつつも、諸外国の動向を踏まえたうえで、今後抜本的に生成AIを対象とする法律が制定される可能性もゼロではありません。

ですから、生成AIを自社のビジネスや副業などで活用する場合には、生成AIに対する法規制や今後の動向を常にチェックする姿勢が欠かせません

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この記事の監修者
さいたまシティ法律事務所
荒生 祐樹
埼玉弁護士会所属。新聞、テレビ番組などメディアへの出演経験を複数もち、インターネット問題(ネットいじめ)、反社会的勢力対応等の数々の著書の執筆にも携わる。
ベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)編集部
編集部

本記事はベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビIT(旧IT弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。

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