インターネットが普及して生活の利便性が向上した一方で、SNSや匿名掲示板などにおいて、肖像権侵害トラブルに巻き込まれるケースが増えています。
肖像権とは自分の容姿・姿態を許可なく撮影されたり、それら撮影物を無断で公表されたりしない権利です。
たとえば無断で自分の姿が撮影されたり、自分を撮影した写真などを許可なくインターネット上にアップロードされたりした場合、「肖像権侵害」にあたる可能性があります。
肖像権侵害の被害に遭ったときには、該当の写真・動画の削除を要求したり、加害者に損害賠償を請求したりすることが可能です。
公開された画像・動画がインターネット上に掲載されたままだと、それが拡散されて被害が拡大するリスクがあります。
本記事では、インターネット上で肖像権を侵害されたときの対処法や、過去の肖像権侵害の裁判例などについてわかりやすく解説します。
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肖像権侵害とは、本人の許可なくみだりに容姿・姿態を撮影したり、その撮影物を使用・公開したりすることです。
肖像権は法律で明文化された権利ではありませんが、過去の判例から憲法第13条を根拠とした権利と考えられています。
第十三条すべて国民は、個人として尊重される。
生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
肖像権には、以下3つの権利が含まれています。
撮影拒否権 |
顔や容姿(肖像)を許可なく撮影されない権利 |
使用公表の拒絶権 |
肖像の撮影物を許可なく使用・公表されない権利 |
パブリシティ権 |
肖像の利用に関わる本人の財産的利益を保護する権利 |
撮影拒否権や使用公表の拒絶権は、誰にでも認められ保護されるべき人格的利益とされます。
一方、パブリシティ権が認められるのは、肖像に経済的利益を有する有名人です。
肖像権侵害については、最高裁が注目するべき判決(以下)を下しています。
1 人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
本判例では、肖像権侵害に該当するか否か(不法行為責任が発生するか否か)を判断するときの基準として、以下6要素を挙げています。
本判例では、これら要素を総合的に検討し、人格的利益の侵害が社会生活上受任限度を超えるか(=肖像権侵害)判断するとしています。
ここでは、各要素について詳しくみていきましょう。
被撮影者の社会的地位によって肖像権侵害の程度・有無は左右されます。
たとえば、被撮影者が一般私人であり、無断で自分の顔や姿態を撮影された場合には、肖像権侵害の程度は大きいと判断される傾向があります。
これに対して、公人や公共の利害に関わる人物(刑事事件の被疑者や被告人、メディア出演する機会が多い専門家やコメンテーター、政治家など)が無断で撮影されたとしても、肖像権侵害の程度は比較的軽いと考えられます。
「許可なく撮影されたタイミングで、被撮影者がどのような活動をしていたのか」次第で肖像権侵害の有無・程度の判断は変わってきます。
たとえば、プライベートな空間で過ごしている様子や誰かに見られることを想定していない状況を無断で撮影されたのなら、肖像権侵害の程度は上がると判断されるのです。
これに対して、公務や公の行事に参加している様子、第三者に見られて当然の場所・空間での様子を撮影された場合には、肖像権侵害にあたらないか、肖像権侵害の程度は相対的に低いと考えられます。
両者の具体例は以下を参照してください。
侵害性が高いと考えられる事例 |
・水着、裸、肌の露出が多い服装などの様子を撮影されたケース ・寝ている姿、泥酔中の姿、手錠をかけられている姿などを撮影されたケース |
侵害性が低いと考えられる事例 |
・公務や公の行事に参加しているところを撮影されたケース ・デモ活動に参加している様子を撮影されたケース ・公開されたイベントにおいて、舞台上でスピーチなどをしている様子を撮影されたケース |
撮影された場所は肖像権侵害の程度を判断するときの重要な要素のひとつに掲げられます。
たとえば、公園、駅、公民館、路上など、第三者に姿を見られることが当然の前提とされるような場所で撮影されたのであれば、侵害の程度は低下します。
これに対して、自宅、ホテルや飲食店の個室、自家用車や避難所の中に所在するところを撮影された場合、プライバシー性の高い空間での様子を撮影されていると考えられるので、侵害の程度は上がります。
「撮影者がどのような目的をもって無断で撮影行為に及んだか」という主観的要素も肖像権侵害の程度(不法行為責任の成否)を判断する際に考慮されます。
たとえば、犯罪などの違法行為を発見し、その証拠を残すことを目的に撮影したケースは、本来の目的に外れていない限り侵害性は低いと考えられるのです。
これに対して、公開されることを想定していないプライベートな写真を公表した場合は、侵害性は上がると考えられます。
撮影者がどのような態様で撮影したかも、肖像権侵害の有無・程度を判断する際のポイントになります。
たとえば明確な撮影許可がなくても、撮影時にピースサインをしていれば、撮影されていることを一定程度許容していると考えられます。
そのため、侵害性は低いと考えられるわけです。
たくさんの人が映っていたり、誰にも焦点が合っていなかったりする場合も、侵害性は低いと考えられます。
一方、手で顔を隠すなど撮影を拒否していたり、公道などで特定の人物に焦点があたっていたりしたら侵害性は上がるのです。
そのほか本人が撮影されることを把握していない隠し撮りなども、侵害性が高いと考えられます。
肖像権侵害の程度・有無を判断する際には、撮影や公表の必要性も加味されます。
たとえば、ニュースなどの報道目的による撮影であっても、被撮影者にとって明らかな不利益があれば必要性が疑われるのです。
その結果、肖像権の侵害と判断されることもありえます。
インターネット上に無許可の写真が公開されたとしても、常に肖像権侵害とみなされるわけではありません。
ここでは、被撮影者に無断でインターネット上へ写真・動画などを掲載した投稿者に不法行為責任が成立するときの判断基準3つを解説します。
アップロードされた写真・動画を見ただけで本人と特定できるような撮影の仕方をされている場合には、肖像権侵害は成立しやすいと考えられます。
これに対して、本人と特定できるだけの情報を読み取ることができないケースでは、無断でアップロードされたとしても、肖像権侵害は成立しない可能性が高いです。
被撮影者が許可をしたうえでの撮影であれば、肖像権の侵害にはあたりません。
一方で公表まで認めていないのに、インターネット上で公開されたという場合は、肖像権の侵害と判断される可能性が高まります。
どこで撮影されたかも、肖像権侵害か否か判断するひとつの材料になります。
たとえば公園やイベント会場といった公共の場であれば、撮影されていてもおかしくないと容易に想像できるでしょう。
そのため肖像権の侵害とは認められづらくなるのです。
不特定多数に閲覧されることで、被撮影者の精神を害する可能性が高まります。
そのため、多くの人が参照する可能性が高い媒体で公開されると肖像権の侵害とみなされやすくなるのです。
たとえばX(旧Twitter)やInstagramなどユーザー数の多いSNSへ被撮影者の許可なく撮影した写真を投稿すれば、より肖像権侵害と判断されやすくなります。
実際に裁判で肖像権侵害について争われた事例を紹介します。
ご自身が巻き込まれたトラブルとの類似点・相違点を確認してください。
Twitter(現X)に掲載した娘(1歳)の写真を無断で転用されたとして、肖像権侵害が認められた事例です。
本件では、「安保デモへ無理やり連れていかれた孫が熱中症で亡くなった」という虚偽の投稿に、原告の娘の写真が無断で使われました。
本投稿が拡散したことから、原告は肖像権の侵害にあたるとして、裁判で投稿者の個人情報開示を求めたのです。
裁判では原告の主張通り肖像権侵害が認められ、該当プロバイダは投稿者の住所やマンション名を開示するよう命じられました。
原告は、インターネット上で知り合ったメンバーが参加するオフ会で、「民家風の建物の畳敷きの室内において、他参加者が鞭をもって座っている正面で、縄で緊縛された状態で柱に吊るされている姿」を撮影されました。
そしてこの写真がTwitter(現X)へ無断で投稿されたことから、原告は肖像権侵害及びプライバシー権の侵害にあたるとして被告を訴えます。
裁判では原告の主張が認められ、被告に対し約50万円の損害賠償が命じられました。
さいごに、インターネット上で肖像権侵害の被害にあったときの対処法を紹介します。
肖像権を侵害された場合、該当の写真や映像の公開を一刻も早く停止してほしいと考えるでしょう。
無断で写真などが公開された場合、公開先のサイト管理者へ削除を求める方法があります。
サイト内に設置された専用フォームを使うなどして、該当の写真などを削除するよう求めましょう。
ただし、削除依頼に応じるか否かはサイト管理者の任意です。
サイト管理者が応じない場合、「送信防止措置依頼書」を送ることも検討します。
送信防止措置依頼書とは、プロバイダ運営責任法にもとづき、運営者に対し投稿の削除を正式に求めることができる書面です。
送信防止措置依頼書でも相手が応じない場合は、法的手段によって引き続き削除を求めることになります。
具体的には裁判所にて、「投稿削除に関する仮処分の申し立て」をおこなうのが一般的です。
申し立てが認められると、裁判所がサイト管理者に対し削除命令を出します。
サイト管理者側は正式な裁判をおこなわなくても、命令に従い削除に応じることが多いです。
なお、仮処分の申し立てから削除命令まで、通常は1~2ヵ月かかるので注意ください。
なお、送信防止措置依頼書や投稿削除に関する仮処分の申し立てを適切におこなうには、専門的な知識が求められます。
そのため弁護士に相談・依頼をして、これら手続きをおこなった方がよいでしょう。
肖像権を侵害された場合、精神的苦痛を受けたとして、相手に対し裁判などで損害賠償を請求する方法もあります。
投稿者の氏名や住所などがわからない場合は、発信者情報開示命令などの法的な手続きも必要です。
これらの手続きは複雑で手間がかかるうえに、方法を誤ると相手から適切な賠償額を受け取れない可能性も高まります。
そのため弁護士に相談して、アドバイスを求めるとよいでしょう。
弁護士に対応を依頼すれば、面倒な手続きを全て任せることもできます。
肖像権侵害の画像・動画を発見したときには、できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談することが強く推奨されます。
インターネット上に投稿された画像・動画は全世界に公開されているので、アップロードされている期間が長いほど、肖像権侵害の画像・動画が拡散されるリスクに晒され続けるからです。
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SNSや匿名掲示板をめぐる法律紛争は対応を開始するタイミングが早いほどスムーズに解決できるものです。
そのため可能な限り速やかに、弁護士へ相談することが推奨されます。
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