自分の顔や姿をSNSなどで無断公開された場合は、肖像権侵害として慰謝料を請求できる可能性があります。ただし、一定の条件を満たす必要があり、相手が匿名なら特定の手続きも進めなければなりません。
やり方を誤ると二次被害を招いたり、交渉が長引いたりするおそれもあるので、まずは正しい知識を身に付け、必要に応じて弁護士に相談することが重要です。
本記事では、肖像権侵害の慰謝料相場や慰謝料請求が認められる条件、投稿者を特定する方法などを解説します。泣き寝入りせず、慰謝料を適切に受け取りたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
肖像権とは、自分の顔や姿を無断で撮影・公開されない権利のことです。法律に明文化されてはいないものの、肖像権を侵害する行為は民法上の不法行為に該当します。
肖像権には性質の異なる二つの側面があり、慰謝料を請求できるかどうかも変わってきます。それぞれの違いを以下で整理しておきましょう。
プライバシー権とは、自分の私生活や容ぼうをみだりに公開されない権利のことです。以下の3つの要件を満たす情報が公開された場合は、プライバシー権の侵害行為とみなされます。
例えば、SNSや掲示板に自分の顔写真を勝手に投稿されたケースなどが典型的なパターンです。私生活や容ぼうを無断で撮影・公開された場合は、精神的な苦痛が生じるものと考えられるため、被害者は慰謝料請求をおこなうことができます。
パブリシティ権とは、有名人の名前や肖像がもつ経済的な価値を守る権利のことです。有名人の写真を無断で商品の宣伝に使う行為などは、パブリシティ権の侵害に当てはまります。
通常、パブリシティ権の侵害で生じるのは、精神的苦痛ではなく財産的な損害です。そのため、加害者に請求できるのは慰謝料ではなく、本来得られたはずの利益の賠償になります。
なお、一般の方の肖像に経済的な価値が生じるケースは少なく、基本的にパブリシティ権の侵害は認められません。
一般の方の肖像権侵害で請求できる慰謝料(示談金)の相場は、おおむね10万円~50万円です。ただし、実際の金額は以下のような要素によって大きく変動します(考慮要素は例示であり、実際には多様な要素が考慮されます。)。
なお、肖像権侵害の加害者に請求できる項目は慰謝料に限りません。投稿者を特定するための調査費用や、弁護士費用の一部も請求できる場合があります(ただし、認められない場合も少なくありません。)。
肖像権侵害の慰謝料は、一定の条件が重なると相場を大きく上回ることがあります。ここでは、慰謝料が高額になりやすい3つのケースを解説します。
極めて私的な情報が公開された場合は、慰謝料が高額になります。被害者が受ける精神的苦痛の大きさが慰謝料の金額に反映されるためです。
いわゆるリベンジポルノや、トイレ・浴室で盗撮された画像の流出が典型例です。性的な画像の流出は、被害者に深刻な精神的ショックを与えます。内容次第では、慰謝料が3桁万円規模となることも珍しくありません。
プライベートの画像・動画が拡散すると、ストーカーなどの二次被害につながるおそれもあるので、弁護士と連携しながら削除に向けた手続きを迅速に進めることが重要です。
肖像権侵害の被害規模が大きくなった場合も、慰謝料は増額される傾向にあります。
例えば、性的な画像・動画がSNSで拡散され、ほかの媒体にも転用された場合などです。閲覧者が増えるほど、被害者の精神的苦痛も大きいと評価されるため、高額な慰謝料請求が認められやすくなります。
一方、画像や動画の拡散範囲が限られたコミュニティの中にとどまる場合には、慰謝料も抑えられることがあります。
肖像権以外の権利侵害が同時に生じている場合も、それぞれについて精神的苦痛が生じているものとみなされ、慰謝料が高額になることがあります。同時に問題になりやすい権利侵害は、次のとおりです。
| 権利侵害の種類 | 具体例 |
| 名誉毀損 | 「反社会的勢力である」「売春をしている」といった、具体的な事実を示して社会的評価を下げた場合で、違法性のある場合 |
| 侮辱 | 「頭がおかしい」「低能」といった、具体的な事実を伴わない侮蔑的な言葉を添えた場合で、違法性のある場合 |
成立する権利侵害は、漏れなく主張することが重要です。被害の全体像を整理するためにも、弁護士のサポートが欠かせません。
次に、肖像権侵害の慰謝料請求が認められる条件のうち、分かりやすいものとして5つの条件を解説します。自身の被害状況を振り返りながら、読み進めてみてください。実際には、複雑な条件により違法性は判断されるため、具体的内容については弁護士への相談を推奨します。
慰謝料を請求する条件のひとつは、画像や動画を見た第三者が個人を特定できることです。
例えば、顔が鮮明に写っている場合は特定性が高いと判断されます。また、顔が隠されていても、服装・体型・背景・同行者から総合的に本人だと特定できれば条件を満たします。
逆に、風景の中に小さく紛れ込んでいる程度で本人を識別できないレベルであれば、慰謝料請求は困難です。
二つ目の条件は、撮影と公開について本人の明確な同意がないことです。撮影や公開を本人が認めていたなら、原則として肖像権侵害は成立しません。
本人の同意に関して争点となりやすいのは、許可を出した範囲です。例えば、撮影に同意しただけなのに、画像をSNSに投稿されるケースなどが挙げられます。事前に同意した範囲を超える場合は、慰謝料を請求できる可能性が高いといえるでしょう。
また、黙示の同意があったかどうかも、争点になりやすいポイントです。同意の有無は個別の事情を踏まえて判断する必要があるので、トラブルになったときは弁護士に相談してください。
三つ目の条件は、撮影場所が私的空間かどうかです。
私的空間とは、自宅・更衣室・病室などが該当します。他人の目が届かない私的空間は、プライバシー保護の必要性が高い場所です。安心して過ごせるはずの空間で撮影されれば、権利侵害を主張できる可能性が一段と高まります。
一方、公道や観光地のような公共の場所での偶発的な写り込みは、原則として肖像権侵害の対象外です。社会生活を送るうえでやむを得ない事象として、受忍限度の範囲内と判断されやすい傾向にあります。
四つ目の条件は、不特定多数の目に触れる場所で公開されていることです。具体的には、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSで写真・画像を無断公開されるケースが該当します。
なお、鍵付きアカウントや限定的なグループLINEであっても、権利侵害にあたる可能性はあります。ただし、拡散範囲が小さい場合は、慰謝料も抑えられやすくなる点に注意してください。
五つ目の条件は、精神的な苦痛が受忍限度を超えていることです。受忍限度とは、社会生活を送るうえで我慢すべきとされている社会通念上の限界を指します。
例えば、風景の一部に写り込んでいた場合は、受忍限度内にとどまるものとして、慰謝料請求は原則認められません。一方、性的な画像などの無断公開は、受忍限度を超えるものと評価される可能性が高いです。
しかし、受忍限度に関して一律の線引きはありません。公開された情報の内容はもちろん、被害者の社会的地位や情報公開の目的・必要性などをもとに、判断する必要があります。
次に、肖像権侵害で慰謝料を請求する際の流れを解説します。スムーズに手続きを進めるためにも、おおまかな流れを把握しておきましょう。
慰謝料請求に向けた最初のステップは、証拠の保全です。証拠がない中で権利侵害を主張しても、相手に否定された時点で反論できなくなります。
肖像権侵害の証拠となるものは、主に以下のとおりです。
スクリーンショットは、アカウントIDや前後の文脈を含めて画面に収めるのがポイントです。スマートフォンでは全体を撮影できない場合があるので、パソコンも併用してください。動画の場合は、画面録画で記録を残しておきましょう。
相手が投稿を削除する可能性もあるので、被害に気づいた時点で証拠の保全のために動くことが重要です。
証拠を保存したあとのステップは、加害者の特定です。情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に基づく情報開示手続を行い、加害者の氏名や住所を割り出します。
現在は、発信者情報開示命令を利用するケースが一般的です。従来型の発信者情報開示請求では、サイト運営者とプロバイダの両方に対して情報開示を求める必要がありました。しかし、法改正で新設された発信者情報開示命令なら一つの手続きで完結させられます。
ただし、時間との勝負である点は変わりません。プロバイダや事案によっても異なりますが、通信ログの保存期間は通常3ヵ月~6ヵ月しかないので、手続きに時間をかけすぎると特定が難しくなります。
加害者を特定できれば、内容証明郵便で慰謝料を請求します。
内容証明郵便は、いつ・誰が・誰に・何を送ったかを郵便局が証明してくれるサービスです。内容証明郵便自体に強制力はありませんが、裁判に発展した際に慰謝料請求したことを示す有力な証拠となります。
また、法的措置も辞さない本気度が伝わり、相手に対応を促す効果があることもメリットのひとつです。弁護士の名義で送れば、相手にかかるプレッシャーがさらに高まります。
交渉がまとまったら、必ず合意書を作成してください。合意内容を書面で残しておけば、不払いトラブルを防ぎやすくなります。
相手方との任意交渉が決裂した場合は、調停や訴訟などの法的手続に移行することも検討しましょう。任意交渉のあとに取れる主な法的手続は、以下の3種類です。
| 手続き | 概要 | 特徴 |
| ADR(裁判外紛争解決) | 民間の専門機関が間に入り、和解をあっせんする | 非公開で柔軟。 |
| 調停 | 調停委員を介して、話し合いでの解決を目指す | 調停成立時に作成する調停調書には執行力があり、差押えも可能。合意に至らなければ調停は不成立になる。 |
| 訴訟 | 裁判官が証拠に基づいて判決を下す | 強制力があり勝訴判決が確定すれば差押えも可能。時間と費用がかかる。 |
どの方法を選ぶべきかは、個々の状況によって異なります。また、手続きを進めるにあたっては法的な知識が求められるので、まずは弁護士に相談することから始めましょう。
次に、肖像権侵害による慰謝料請求が認められた事例を2つ紹介します。自分が置かれている状況と類似する部分がないか、照らし合わせてみてください。
まず紹介するのは、顔写真をなりすまし投稿に利用され、肖像権を侵害された事例です。
| 区分 | 内容 |
| 事案概要 | 加害者が、被害者の顔写真と、類似するアカウント名を使って被害者になりすまし、SNSの掲示板で他人を罵倒する投稿を繰り返した。 |
| 裁判所の判断 | 名誉権の侵害と肖像権の侵害を認定。プライバシー権とアイデンティティ権の侵害は否定した。 |
| 認められた賠償額 | 慰謝料60万円に弁護士費用などを加えた約130万円 |
本事案のポイントは、自分で公開していた写真でも肖像権侵害が認められた点です。一方、プライバシー権などの侵害は否定されており、どの権利侵害を根拠に慰謝料請求するかが重要であることがわかります。
次に紹介するのは、取材を受ける際の「顔を出さない」という約束に反して、自身の容ぼうが放送された事例です。
| 区分 | 内容 |
| 事案概要 | テレビ局が、詐欺未遂事件の取材で「顔を出さない・声を加工する」と約束する念書を作成していた。しかし、取材相手が逮捕された際、約束に反して容ぼうや音声を加工しないまま複数の番組で放送した。 |
| 裁判所の判断 | 取材時の約束は逮捕後も有効と判断。約束に反した容ぼうの公表は受忍限度を超え、肖像権の侵害にあたると認定した。一部の放送では名誉毀損も成立した。 |
| 認められた賠償額 | 慰謝料500万円に弁護士費用50万円を加えた550万円 |
公共性のある報道であっても、約束に反した容ぼうの公表は受忍限度を超えると判断されました。また、不特定多数が目にするテレビ放送は被害規模が大きく、高額な慰謝料の支払いが命じられています。
肖像権侵害の慰謝料請求は、ネットトラブルが得意な弁護士に依頼するのがおすすめです。法律の専門家である弁護士が介入すれば、法的知識のない個人が対応するよりも、有利な結果を得られる可能性が高まります。
具体的には、以下のようなサポートを受けられます。
費用対効果が不安な場合は、まず無料相談で見通しを立ててもらいましょう。回収できる金額と弁護士費用を照らし合わせれば、依頼すべきかどうかを冷静に判断できます。
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最後に、肖像権侵害の慰謝料に関するよくある質問へ回答します。多くの方が抱きやすい疑問を3つ取り上げるので参考にしてください。
自分でSNSに公開した写真であっても、他人が無断で転載すれば、肖像権侵害になり得ます。自分で投稿したことは、第三者による無断利用を許す根拠にならないからです。
観光地や街中で風景の一部として小さく映り込んだ程度であれば、原則として肖像権侵害にはあたりません。社会生活を送るうえでは当然起こり得ることであり、受忍限度を超えるほどのものではないからです。
ただし、背景に写ったケースが全て許されるわけではありません。特定の個人にズームされていたり、被写体と同じくらい鮮明に顔が判別できたりする状態での無断公開は、権利侵害として責任を追及できる余地があります。
肖像権侵害に対する慰謝料請求の時効は以下のとおりです。
時効が完成し、援用されると慰謝料を請求する権利そのものが失われます。
ただし、実務上、注意しておくべきなのは不法行為の時効よりもログの保存期間です。プロバイダの通信ログは一定期間経過すると削除されるため、加害者の特定に向けた手続きは迅速に進める必要があります。
肖像権侵害の慰謝料は、10万円~50万円程度が相場ですが、被害状況次第では大きく増額されることもあります(ただし、事案により大きく変動します。)。ただし、慰謝料請求が認められるには、「個人が特定されていること」「受忍限度を超えていること」などの条件を満たさなければなりません。
また、加害者を特定するための手続きは複雑で、時間的な制約もあります。泣き寝入りを避けるには、被害に気づいた段階で早く動くことが何より大切です。
ベンナビITなら、肖像権侵害のトラブルが得意な弁護士を効率よく探せます。無料相談に対応している法律事務所も多いので、まずは一度、気軽に相談することから始めましょう。
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