ネット上で誹謗中傷の被害に遭った方の中には、加害者に対して「侮辱罪で訴えたい」と考えている方もいるでしょう。
ネット上で誹謗中傷を受けた場合、侮辱罪が成立する可能性があります。
ただし、侮辱罪には成立要件があって必ずしも成立するわけではなく、特に素人の方などは名誉毀損罪と混同してしまうこともあります。
誹謗中傷トラブルに適切に対処するためにも、本記事で侮辱罪に関する正しい知識を押さえておきましょう。
本記事では、侮辱罪の定義や罰則、侮辱罪が成立する言動、ネット上で誹謗中傷した加害者を訴える際の流れなどを解説します。
侮辱罪とは、事実を摘示せずに公然と人を侮辱した場合に成立する犯罪のことです。
刑法第231条にて定められており、特に悪質なケースや前科があるケースなどでは逮捕されて実刑判決が下されたりすることもあります。
侮辱罪は対面のやり取りでも成立しますし、SNSやインターネット掲示板といったネット上のやり取りでも成立します。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
引用元:刑法第231条
侮辱をした加害者に対しては、刑事と民事の両面から責任追及することが可能です。
ここでは、侮辱をした加害者に科される罰則について解説します。
侮辱をした加害者には、拘禁刑や罰金刑などの刑事罰が科される可能性があります。
侮辱罪の刑事罰は「1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金刑、または拘留もしくは科料」です(刑法第231条)。
かつての侮辱罪の刑事罰は「拘留または科料」でしたが、2022年におこなわれた刑法改正によって以下のように厳罰化されました。
侮辱をした加害者に対しては、慰謝料などの支払いを求めることも可能です。
侮辱の場合、慰謝料相場としては10万円程度に収まるのが一般的です。
ただし、実際のところは個々の状況を総合的に考慮したうえで金額を決定するため、状況次第では上記の範囲を超えることもあります。
自分の場合はいくらが妥当か知りたい場合は、弁護士にご相談ください。
侮辱罪が成立するためには「公然性」や「侮辱」などの要件を満たしている必要があります。
ここでは、それぞれの意味について解説します。
「公然性」とは、不特定もしくは多数の人が認識できる状態を指します。
たとえば「インターネット上の投稿・記事・掲示板などで誰かを侮辱した」というようなケースが該当します。
なお、「実際にどれだけの人が閲覧したのか」は関係ありません。
たとえ閲覧した人が少なくても、不特定もしくは多数の人が閲覧できる状態であれば侮辱罪が成立する可能性があります。
「侮辱」とは、相手の人格を蔑んだり低く評価したりすることを指します。
なお、侮辱罪によって保護されるのは被害者の名誉感情ではありません。
実際に被害者が傷ついたかどうかではなく「被害者の社会的な名誉や評価が傷つけられたかどうか」が重視されます。
たとえ被害者自身が傷ついたとしても、なかには「社会的名誉や評価を害するものでない」などと判断されて侮辱罪が成立しないこともあります。
インターネット上の投稿が侮辱罪に該当するかどうかの判断基準としては、主に以下の3つがあります。
ここでは、侮辱罪の判断基準についてそれぞれ解説します。
不特定あるいは多数の人が目にする可能性があるページ・URLへ投稿されたものであれば、基本的に「公然性がある」とみなされます。
たとえば、インターネット掲示板やSNSへの投稿・ブログのコメントなどは、基本的に誰でも閲覧できるため公然性があると判断できるでしょう。
一方、第三者がいない密室や1対1のダイレクトメッセージなどで蔑むような発言などがあった場合は、不特定または多数の人が目にするとはいえないと判断されて侮辱罪が成立しないおそれがあります。
侮辱罪は、事実を摘示せずに公然と人を侮辱した場合に成立する犯罪です。
事実を示す必要がないことから、表現が抽象的だったとしても侮辱罪が成立することになります。
なお、法律では「この言葉を使ったら侮辱罪になる」といった明確な基準は定められていません。
ただし一般常識で考えて、他人を傷つけるような言葉を吐いたり、SNSなどに投稿したりするのは避けるべきでしょう。
投稿内容に同定可能性があるかどうかも判断基準のひとつです。
同定可能性とは、問題の投稿が誰を対象にしているのかがわかる状態のことです。
たとえば「山田太郎」という人が「yama1234」というアカウント名でSNSを利用していたとします。
ある人が「yama1234はバカでデブだ」という投稿をした場合、投稿に「山田太郎」という実名は記載されていないものの、誰に向けた投稿なのかを判断することは可能です。
このように、実名の記載がなくても、そのほかの情報や前後の投稿などで対象者を特定できる場合は同定可能性が認められます。
法律上は「この言葉を使うと侮辱罪が成立する」というような明確な線引きがあるわけではなく、個々の状況を総合的に考慮したうえで判断されます。
参考までに、法務省が公表している「侮辱罪の事例集」によると、以下のようなケースで侮辱罪が成立しています。
・SNSの被害者に関する配信動画で「BM,ブタ」などと放言したもの。
・インターネットサイトの被害法人に関する口コミ掲示板に,「詐欺不動産」,「対応が最悪の不動産屋。頭の悪い詐欺師みたいな人。」などと掲載したもの。
・商業施設掲示板に「○○(被害者名) コノオトコハ ワルイ オトコ デス」などと記載した紙片1枚を貼付したもの。
・駅の柱等に「ご注意 ○○(被害者名) 悪質リフォーム工事業者です」などと記載した紙片5枚を貼付したもの。
・路上において,被害者に対し,「スコップとかスケールを盗んだ。」などと大声で言ったもの。
・商業施設において,他の買い物客等がいる前で,視覚障害者である被害者に対し,「おめえ,周りが見えんのんやったら,うろうろするな。」などと大声で言ったもの。
引用元:侮辱罪の事例集|法務省
なお、弁護士なら侮辱罪が成立するかどうか法的視点から判断してくれます。
自分では判断が難しい場合は、一度相談してみることをおすすめします。
侮辱罪と混同されやすいものとして「名誉毀損罪」があります。
侮辱罪と名誉毀損罪は、主に構成要件・刑事罰・特例などの点で異なります。
ここでは、侮辱罪と名誉毀損罪の違いについて解説します。
|
侮辱罪 |
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金刑、または拘留もしくは科料に処する。 |
|
名誉毀損罪(刑法第230条1項) |
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑に処する。 |
侮辱罪と名誉毀損罪の大きな違いは「事実を摘示する必要があるかどうか」です。
侮辱罪の場合は事実を摘示しなくても成立するのに対し、名誉毀損罪の場合は事実を摘示しなければ成立しません。
たとえば「バカ」「ブス」などの投稿には具体的な事実が伴わないため侮辱罪が成立する可能性がありますが、「○○は部下にセクハラをしている」「○○は会社のお金を横領している」などの事実を摘示している場合は名誉毀損罪が成立する可能性があります。
なお、たとえ示された事実が本当のことだったとしても、名誉毀損罪は成立します。
侮辱罪と名誉毀損罪では刑事罰の内容も異なります。
侮辱罪の場合は「1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金刑、または拘留もしくは科料」です。
一方、名誉毀損罪の場合は「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑」となっています。
2022年の刑法改正によって侮辱罪は厳罰化されましたが、それでも名誉毀損罪のほうが重く設定されています。
名誉毀損罪には「構成要件を満たしていても、公共性・公益性・真実性が認められる場合は処罰されない」という特例があります。
一方、侮辱罪には名誉毀損罪のような特例はありません。
以下では、公共性・公益性・真実性についてそれぞれ解説します。
(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
摘示した事実が、公的なテーマであるかどうかが問われます。
たとえば「政治家のスキャンダル」は、国民が選挙で投票する際に重要な判断材料のひとつとなります。
したがって、情報を公表することによる大きな社会的利益があると考えられ、公共性が認められる可能性があります。
事実を摘示した目的が、もっぱら公共の利益を図るものだったかどうかが問われます。
たとえば「市場に出回っている商品に大きな欠陥があることを指摘した」というようなケースでは、消費者の利益を守るためにおこなわれたのであれば公益性が認められる可能性があります。
一方、個人的な感情による復讐や嫌がらせで事実を摘示したのであれば、公益性は認められません。
摘示した内容が真実であるかどうかも問われます。
公共性や公益性に加え、摘示した内容について真実性が認められれば名誉毀損罪は成立しないわけです。
なお、仮に摘示した内容に誤りがあっても、真実相当性が認められれば名誉毀損罪は成立しません。
真実相当性とは、その内容が真実であると判断するのに足りる資料や根拠などがあったことを指します。
たとえば、単なる噂話のような根拠の乏しいものであれば、真実相当性がないと判断されることになります。
ネット上で誹謗中傷した加害者を訴える場合、基本的には以下のような流れで進行します。
ここでは、それぞれの手続きの流れについて解説します。
誹謗中傷を受けたことを主張する際は、被害事実を示す証拠が必要です。
投稿内容をスクリーンショットするなどして、証拠として残しておきましょう。
ネット上の投稿はいつ削除されるのかわからないため、投稿を見つけた段階ですぐに証拠化しておくことが大切です。
スクリーンショットする際は、以下の内容がわかるようにして保存しておきましょう。
なお、スマートフォンでは上記の情報が全て映らない可能性があるため、できればパソコンの画面で保存しておくことをおすすめします。
証拠を確保したあとは、加害者の特定手続きを進めましょう。
サイト・SNSの運営者や通信会社・プロバイダ事業者などに対して、以下のような流れで情報の開示を求めます。
なお、2022年10月1日からは新制度として「発信者情報開示命令」が導入されており、サイト運営者やプロバイダなどへの開示請求を一体的におこなうことも可能です。
発信者情報開示命令では、基本的に以下のような流れで手続きが進行します。
加害者を特定したあとは、刑事告訴の手続きをおこないます。
最寄りの警察署に行き、告訴状を作成して提出しましょう。
告訴状が受理されれば捜査開始となり、加害者の逮捕や取り調べなどの刑事手続きが進められます。
捜査が進んで起訴された場合、刑事裁判が開かれて有罪無罪や量刑などが判断されます。
ネット上で誹謗中傷した加害者を訴える際は、以下のような点に注意しましょう。
ここでは、加害者を訴える際の注意点についてそれぞれ解説します。
侮辱罪は親告罪にあたり、刑事処罰を求める際は告訴が必要です。
親告罪とは「告訴がないと検察が起訴できない犯罪」のことです。
日本では、告訴が不要な「非親告罪」が多くを占めていますが、侮辱罪や名誉毀損罪などは告訴が必要なので注意しましょう。
侮辱罪には告訴期間や公訴時効などが定められているため、被害が発覚した時点で速やかに動くことが大切です。
告訴期間とは「刑事事件の加害者を告訴できるタイムリミット」のことで、加害者を知った日から6ヵ月以内と定められています(刑事訴訟法第235条)。
告訴期間を過ぎてしまうと、告訴が原則受理されなくなるため、警察による捜査や加害者に対する処罰は望めません。
公訴時効とは「検察官が被疑者を起訴できるタイムリミット」のことで、公訴時効の期間は3年と定められています(刑事訴訟法第250条2項6号)。
公訴時効が成立してしまうと、検察官は起訴して刑事裁判にかけることができなくなるため、加害者に対する処罰は望めません。
誹謗中傷の被害に遭った際は慰謝料を獲得できる可能性がありますが、受け取るためには別途請求手続きが必要です。
慰謝料の請求方法としては、加害者を特定したあとに書面や交渉などの手段で請求するのが一般的です。
もし加害者が支払いに応じない場合、最終的には裁判に移行して解決を目指すことになります。
ネット上で誹謗中傷された際は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットが望めます。
ここでは、誹謗中傷トラブルでの弁護士のサポート内容について解説します。
弁護士に相談すれば、問題の投稿について侮辱罪が成立するかどうか法的視点から判断してくれます。
自分では「侮辱された」と感じるような内容の投稿だったとしても、場合によっては侮辱罪の成立要件を満たしていないと判断されたりすることもあります。
侮辱罪に該当するのかどうかを判断する際は法律知識が必要となるため、十分な知識のない素人では判断を誤ってしまう可能性があります。
弁護士に法的な見解を聞いてみることで明確になりますし、侮辱罪に該当する場合は今後の対応などもあわせてアドバイスしてくれます。
弁護士に依頼すれば、加害者の特定手続きや告訴手続きに対応してくれます。
加害者の身元を特定するためには、サイト管理者やプロバイダとのやり取りや裁判手続きが必要になることもあるなど、慣れない手続きに追われることになります。
告訴手続きの際は、捜査機関が何かしらの理由をつけて受理してくれない場合もあります。
弁護士なら、依頼者の代理人となって対応してくれるため負担が大幅に軽減しますし、不備なく適切な告訴状を作成してくれるため受理してくれる可能性が高まります。
弁護士に依頼すれば、慰謝料請求で必要な手続きも代行してくれます。
自力で慰謝料請求することも可能ですが、素人同士では適切な落としどころがわからなかったり、感情的になったりして解決が長引くおそれがあります。
交渉では解決が望めない場合、最終的には裁判に移行して解決を目指すことになりますが、裁判は手続きが複雑であるため素人が適切に対応するのは困難です。
弁護士なら、法律知識や交渉経験を活かして的確かつ冷静に対応してくれるため、自分で請求するよりも早期解決が望めますし、裁判に発展した際も安心して任せることができます。
ここでは、侮辱罪に関するよくある質問について解説します。
法律上は「この言葉を使うと侮辱罪が成立する」というような明確な線引きはありません。
実際のところは個々の状況を総合的に考慮したうえで判断されますが、参考までに以下のようなケースでは侮辱罪が成立しています。
・SNSの被害者に関する配信動画で「BM,ブタ」などと放言したもの。
・インターネットサイトの被害法人に関する口コミ掲示板に,「詐欺不動産」,「対応が最悪の不動産屋。頭の悪い詐欺師みたいな人。」などと掲載したもの。
・商業施設掲示板に「○○(被害者名) コノオトコハ ワルイ オトコ デス」などと記載した紙片1枚を貼付したもの。
・駅の柱等に「ご注意 ○○(被害者名) 悪質リフォーム工事業者です」などと記載した紙片5枚を貼付したもの。
・路上において,被害者に対し,「スコップとかスケールを盗んだ。」などと大声で言ったもの。
・商業施設において,他の買い物客等がいる前で,視覚障害者である被害者に対し,「おめえ,周りが見えんのんやったら,うろうろするな。」などと大声で言ったもの。
引用元:侮辱罪の事例集|法務省
名誉毀損罪と侮辱罪は、主に構成要件・刑事罰・特例などの点で異なります。
主な違いをまとめると以下のとおりです。
|
名誉毀損罪 |
侮辱罪 |
|
|
構成要件 |
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する |
事実を摘示せず、公然と人を侮辱した場合に成立する |
|
刑事罰 |
3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑 |
1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金刑、または拘留もしくは科料 |
|
特例の有無 |
あり |
なし |
侮辱罪で訴える際は「投稿内容をスクリーンショットしたもの」が証拠として有効です。
スクリーンショットを撮る際は、以下の内容がわかるようにして保存しておきましょう。
なお、スマートフォンでは上記の情報が全て映らない可能性があるため、できればパソコンの画面で保存しておくことをおすすめします。
侮辱をした加害者に対しては、刑事と民事の両面から責任追及することが可能です。
ただし、加害者を訴える際は証拠の確保や身元の特定などをおこなう必要があり、慰謝料を請求する場合は加害者との交渉などの対応も必要となります。
少しでも自力での対応が不安なら、弁護士にサポートしてもらうことをおすすめします。
弁護士なら、侮辱罪が成立するかどうかを判断してくれますし、加害者の特定・告訴手続き・慰謝料請求などの対応を一任することもでき、心強い味方になってくれます。
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