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「自分がInstagramに投稿した友達と映った写真が勝手に転載されている」「SNSを見ていたら、自分の顔が映り込んでいる画像が無断でアップロードされていた」など、インターネットが普及するにともなって、肖像権をめぐる法的トラブルが近年増加しています。
SNS上で勝手に自分の写真や動画を投稿された場合には、肖像権侵害を理由に削除請求や投稿者に対する法的責任を追及できる可能性があります。
無断で公開された写真や動画によっては、転載・拡散が繰り返された結果、ネット上から当該データを永遠に抹消できないという状況に追い込まれるリスクもあります。
そこで本記事では、SNSで肖像権を侵害するような写真・動画が公開されていたときの対処法や弁護士へ相談するメリットなどについてわかりやすく解説します。
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肖像権とは、承諾なく容貌・姿態を撮影・公開されない権利のことで、肖像権は憲法上全ての人に認められています(日本国憲法第13条)。
たとえば、SNS上に自分の写真や動画を勝手に投稿された場合、本人の承諾がない以上、肖像権が侵害されたといえるでしょう。
そして肖像権は、民法上の不法行為規定において保護される「権利」に含まれます(民法第709条、第710条)。
そのため、肖像権を侵害された場合には、相手方に対して民法上の不法行為責任を追及することが可能です。
なお、肖像権侵害は犯罪として規定されていないのでケースによるものの、原則として肖像権侵害だけでは刑事責任を追及することはできません。
肖像権は全ての人に認められる人権・権利なので、誰しもが無断でSNS上に容貌・姿態をアップロードされることを拒絶できるのが原則です。
その一方で、観光地での様子を第三者が撮影した際に、自分が偶然写り込んでしまうことも少なくありません。
第三者が写り込んだ写真・動画を撮影した人が常に肖像権侵害を理由に不法行為責任を追及されると、誰も街中などで写真などを撮影することができなくなり、表現の自由などが制限されるおそれが生じます。
そのため、SNS上に投稿された写真や動画が肖像権侵害に該当するためには、一定の要件を満たす必要があると考えられています。
ここでは、SNS上に投稿された動画像が肖像権侵害に該当するか否かの4つの判断要素について解説します。
第1に、SNS上にアップロードされた写真に写り込んだ人物を特定できるかどうかがポイントになります。
たとえば、個人を特定できるほど顔・服装が鮮明に映っている場合は、肖像権侵害に当たる可能性が高いと考えられます。
一方、写り込んでいる画像が極めて小さい場合や顔のピントがボケている場合、顔などの個人を特定できる箇所が写り込んでいない場合などでは、肖像権侵害には該当しないと判断される傾向にあります。
また、顔や姿態全体にモザイク処理が施されている場合もまた、個人を特定できないため肖像権侵害には該当しません。
ただし、モザイク処理が甘くて個人を特定できるような写真・動画であれば、肖像権侵害に該当する可能性も否めません。
第2に、写真や動画の撮影やSNSのアップロードについて本人の許可があるかどうかがポイントになります。
なぜなら、本人の許諾がある以上、肖像権侵害は生じていないと考えられるからです。
ただし、許可の有無については以下のポイントが重要です。
たとえば、写真撮影自体を承諾していたものの、SNSにアップロードされることについては何の説明も受けていなかった場合、肖像権侵害であると判断される可能性が高まります。
また、「X(旧Twitter)へ投稿するため」という説明を受けてその旨しか承諾していないのに、Instagramにも流用されていた場合、Instagramへの投稿については肖像権を侵害していると考えられるでしょう。
さらに、「個人的な趣味のストリートスナップ用に撮影している」という説明を受けて承諾をしたのにもかかわらず、販促用の広告写真としてSNSで使用されていたなど、実際の使用目的に対して承諾をしていなかったケースでも肖像権侵害が生じていると扱われる可能性が高いと考えらえます。
第3に、写真や動画が撮影されている場所が私的空間なのか公共スペースなのかも問題になります。
なぜなら、一般的に公共スペースは「誰かに見られたり、誰かの写真などに写り込んだりすること」可能性が考えられ、肖像権侵害には該当する可能性が低くなります。
これに対して、自宅やホテルの個室、病室などはプライベートな空間であると判断されやすいため、これらのような空間での撮影には細心の注意を払うことが大切です。
第4に、写り込んだ写真や動画がどのような場所にアップロードされたかについても、肖像権侵害の判断を左右するポイントになります。
たとえば、X(旧Twitter)のようなユーザー数が非常に多いアプリ内で、フォロワーの多いアカウントが写真・動画をアップロードしたようなケースでは、拡散性が高いことから肖像権侵害の程度が大きいと考えられます。
一方、閲覧数の少ない個人ブログに写真や動画が公開されたようなケースでは、侵害の程度は極めて少なく、不法行為責任を問うほどの肖像権侵害は生じていないと判断される可能性があります。
なお、「拡散性の高さ」は肖像権侵害の有無を判断する際ではなく、肖像権侵害の程度(慰謝料額を算定する要素)として考慮されるのが一般的です。
これは、「承諾なく顔が特定できるほどの写真」をインターネット上に公開された以上、肖像権侵害が生じていることに疑いはないからです。
SNSに肖像権を侵害されるような写真・動画を投稿されたときには、削除を求める必要があります。
なぜなら、SNS上に当該写真・動画がアップロードされている限り、いつまでも肖像権が侵害され続けますし、ネット上に存在する以上拡散されるリスクがあるためです。
ここでは、SNSに投稿された肖像権を侵害する写真・動画を削除する方法について解説します。
最も簡単な削除請求の方法は、投稿者や運営会社に対して直接削除依頼をすることです。
たとえば、SNS上に問題の写真・動画を投稿している人物に対してDMを送信したり、返信欄にコメントを残したりすれば、削除して欲しい旨を相手に伝えることができます。
相手方が削除要請に任意で応じてくれさえすれば、肖像権侵害の写真・動画は即時に削除されるでしょう。
また、SNSなどのコンテンツサービスの多くで、削除依頼などの専用問い合わせフォームを設けています。
こちらの窓口から「第三者によって肖像権を侵害されている」旨を連絡すれば、運営会社側が写真・動画の削除に向けて動き出してくれる可能性があります。
ただし、SNSの運営会社がスムーズに削除依頼に応じてくれる確証はありません。
運営会社が「肖像権侵害は存在しない」「依頼どおりに写真・動画を削除すると、投稿者側から損害賠償責任を追及される場合がある」などと判断した場合、運営会社による自主的な写真や動画の削除は期待しにくいでしょう。
なお、SNSの運営会社やプロバイダに対しては、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称「プロバイダ責任制限法」)に基づいて削除依頼をすることも可能です(プロバイダ責任制限法第3条第2項第2号)。
運営会社・プロバイダ側が削除依頼に応じてくれる場合には原則7日程度で写真や動画が削除されますが、削除依頼に法的拘束力がない以上、空振りに終わるリスクも存在します。
SNS上に肖像権を侵害するような写真・動画が投稿されたとき、それが誹謗中傷・リベンジポルノ目的でおこなわれたときには、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA/Safer Internet Association)に問い合わせをするのも選択肢のひとつです。
セーファーインターネット協会は、匿名掲示板やSNSなどを舞台に生じるさまざまな違法行為の被害を受けている人の相談に対応し、ネット空間の健全性・安全性を向上することを目的として設立・運営される一般社団法人です。
誹謗中傷被害やリベンジポルノなどの被害者から通報・相談を受けて、国内外のプロバイダなどに対して、利用規約に沿った削除などの対応を促す通知を出してくれます。
また、肖像権侵害の内容次第では、警察への通報やその他行政機関の相談窓口なども案内してくれます。
個人がプロバイダなどに対して削除依頼を出すよりも、セーファーインターネット協会のような団体から働きかけたほうが、プロバイダ側が削除に応じてくれる可能性が高まるでしょう。
削除依頼を出しても投稿者や運営会社が自主的に応じてくれないとき、肖像権を侵害する写真や動画はいつまでもSNS上に投稿された状態が続いてしまいます。
このようなケースでは、投稿の削除に法的拘束力を付与するために、裁判手続きを利用せざるを得ません。
肖像権を侵害するような投稿記事の削除を求める場合に利用できる手続きとして、「投稿記事削除の仮処分申立て」が挙げられます。
投稿記事削除の仮処分申立てとは、権利侵害状態が逼迫した状況において早期の救済を目指すことを目的に、民事保全法に基づいて裁判所に暫定的な措置を求める裁判手続のことをいいます。
通常裁判よりもスピーディな権利回復が期待できる点がメリットとして挙げられます。
投稿記事削除の仮処分の流れは、おおむね以下のとおりです。
裁判所が削除請求の仮処分命令を発令した場合、サイト運営者などは削除請求に応じるのが一般的です。
なお、仮処分命令が発令されたにもかかわらず、サイト運営者などが肖像権を侵害する写真・動画などを削除してくれないときには、通常訴訟で投稿記事削除について争う必要があります。
SNSで肖像権を侵害する写真や動画を投稿された場合、投稿者に対する損害賠償請求・慰謝料請求を検討することになるでしょう。
ただし、匿名アカウントで肖像権侵害情報が発信されているときには、損害賠償請求をする前段階として、加害者側を特定する作業が必要になります。
ここでは、発信者の民事責任を追及するために要求される特定作業の方法について解説します。
まずはサイト運営者に対して任意の開示請求をおこない、発信者情報を調べます。
問い合わせフォームなどから肖像権侵害をする発信者の情報を任意で開示するように求めると、サイト運営者のなかには発信者に対して意見照会手続きを実施したうえで、「発信者の情報を依頼者側に提供してもよいか」の確認をとってくれる場合があります。
ただし、任意請求は法的な強制力がないため、開示を受けることは極めて難しいでしょう。
発信者側の承諾がないのにもかかわらず個人情報を流出させると、通信の秘密侵害罪に該当するおそれがあるほか、発信者から責任追及されるリスクも否めません。
このことからも、匿名アカウントの特定を検討しているのであれば、次項以降で紹介する発信者情報開示請求・発信者情報開示命令を検討するべきでしょう。
発信者情報開示仮処分及び訴訟とは発信者を特定するためにおこなう法的手続のことです。
発信者情報開示仮処分及び訴訟は、一般的に以下の流れでおこなわれます。
つまり、発信者情報開示請求を仮処分及び訴訟手続きで行う場合では、肖像権侵害情報をSNSに投稿した匿名アカウントを特定するために3種類の裁判手続きが必要になるということです。
特定後、発信者に対して損害賠償請求訴訟を提起する必要に迫られると、最大4つの裁判手続きを経なければなりません。
サイト運営者のもとにIPアドレスやタイムスタンプなどのログ情報が保管される期間は3ヵ月~6ヵ月程度であることを踏まえると、肖像権を侵害された個人だけでこれらの手続きを期限内に完遂するのは極めて難しいでしょう。
プロバイダ責任制限法の改正により、発信者情報開示命令の裁判手続が新設されました。
これにより、ひとつの非訟手続の中で以下3種類の仮処分命令の発令を獲得できるので、発信者情報の特定が極めて簡易・簡便になりました。
ただし、この手続きは大変複雑なものであり、専門的な知識・経験を有する弁護士へ依頼しなければ対応が非常に難しいと考えられます。
また、このように新しい手続きが導入されたものの、依然として旧式の手続き(発信者情報開示仮処分及び訴訟)も有効です。
ご自身のケースが新旧どちらの手続きが適しているかを含め、ITトラブルに注力している弁護士へ相談することをおすすめします。
SNS上に肖像権を侵害するような写真・動画が投稿されているのを発見し、投稿者の特定が終わったら、いよいよ相手方の民事責任を追及するステージに移行します。
ここでは、民事責任として慰謝料請求・損害賠償請求をする一般的な流れについて解説します。
損害賠償請求・慰謝料請求の最も簡便な方法が、相手方に対する直接請求です。
特定作業が終了して発信者の住所などが判明しているわけですから、相手方に直接連絡すれば、慰謝料や損害賠償の諸条件について示談交渉をおこなえます。
示談条件について双方が合意に至れば、和解契約を締結したうえで、SNSの肖像権侵害をめぐるトラブルは解決に至ります。
一方、相手方との間で示談条件の折り合いがつかない場合、そもそも相手方が示談交渉に応じない場合、肖像権侵害をするような投稿者と連絡を取り合うのに抵抗がある場合には、民事調停・民事訴訟を提起する必要があるでしょう。
SNSの肖像権侵害投稿をめぐる民事紛争について、裁判所の手続きを利用しつつ、簡便な手続きを希望する方におすすめの方法が「民事調停」です。
民事調停とは、裁判所の調停委員会が当事者の間に入って双方の意見を聴取したり、証拠書類を確認して和解成立に向けた後押しをしてくれたりする手続きのことです。
民事調停は、民事訴訟のように厳格な手続きが定められているわけではなく、安価な費用で円満解決に至りやすい点がメリットとして挙げられます。
また、和解成立によって作成される調停調書には、確定判決と同一の効力が与えられます。
民事調停を利用する場合には、原則として相手方の住所がある区域を管轄する簡易裁判所への申し立てが必要です。
もし遠方の投稿者との民事調停を進めるのが時間的・金銭的に難しい場合には、弁護士に依頼をして調停手続きを代理してもらいましょう。
示談交渉に失敗したり、民事調停が不成立に終わったりしたときには、民事訴訟を提起して肖像権を侵害する写真・動画をSNSに投稿した発信者に対して損害賠償請求・慰謝料請求をおこないます。
民事訴訟では、訴状・証拠書類の準備、口頭弁論期日への出廷、証人尋問への対応など、さまざまな手続きに対応しなければいけません。
また、損害賠償請求・慰謝料請求をする原告側が要件事実を主張・立証する必要がある点にも注意が必要です。
そのため、特に民事訴訟の方法で投稿者の民事責任を追及する場合には、可能な限り弁護士へ依頼をすることが強く推奨されます。
弁護士に一任すれば、全ての手続きを代理してくれるので、原告本人は定期的に弁護士と連絡を取り合うだけで解決に向けて尽力してくれます。
結論からいうと、肖像権侵害は犯罪ではないため、SNSに肖像権を侵害するような投稿をしただけでは刑事告訴はできません。
ただし、肖像権を侵害するような写真・動画を投稿した人物が以下のような投稿などをおこなっているときには、刑事責任を追及できる可能性があります。
成立する可能性がある犯罪 |
具体例 |
名誉毀損罪 |
社会的評価を低下させるような写真・動画を投稿していたり、動画像に誹謗中傷の文言が添えられている場合 |
ストーカー規制法違反 |
SNSに投稿された肖像権を侵害するおそれがある写真・動画の数が相当多く、つきまとい行為をしていることがうかがえる場合 |
リベンジポルノ防止法違反 |
元交際相手が怨恨や嫌がらせから肖像権を侵害する動画像をSNSにアップロードした場合 |
脅迫罪・強要罪・恐喝罪 |
「SNSにプライベートな写真・動画を投稿されたくなかったら〇〇をしろ、〇〇万円を支払え」などの要求があった場合 |
迷惑防止条例違反 |
盗撮行為によって肖像権を侵害する画像・動画が撮影されていた場合 |
このような事情があるケースで刑事責任を追及する場合、警察に対して告訴状・被害届を提出する必要があります。
弁護士へ相談すれば、刑事訴追のサポートや事情聴取への対応方法のアドバイスなども期待できるでしょう。
SNSに肖像権侵害のおそれがある動画・写真を投稿されたときには、速やかに弁護士へ相談することが推奨されます。
弁護士への相談・依頼することによって、以下のメリットを得られるからです。
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