知的財産権とは、人間の知的創造活動の成果に対する権利をいいます。
『財産』というと、自動車や不動産など目に見えるものを思い浮かべるかもしれません。しかし、人間が頭で考えだしたものに対しても財産的な価値が認められることがあり、それらを知的財産と呼びます。
私たちの身の回りにあるパソコンやスマートフォンに使われているテクノロジー、家具のデザイン、音楽などは、いずれも人間の知的な活動によって生み出されたものです。
もしこれらのアイデアを他人が無断でコピーして利益を受けているとしたら、最初にアイデアを考えついた人は『どうせ誰かに利用されてしまうなら馬鹿らしい』と考えて新しいものを創造することをやめてしまうかもしれません。そのようなことにならないように、知的財産に対する権利が認められているのです。
日本では、特許権、実用新案権、意匠権、著作権、商標権などが知的財産権として認められており、法律上の保護が与えられています。
この記事では、知的財産権を侵害された場合、どのような罰則を科すことができるのか、またどのような対象方法があるのかについてご紹介します。
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企業にとって、自社が保有している知的財産権は非常に重要な経営資源です。逆に自社が持っている知的侵害権を他社に侵害されてしまうと、莫大な損害が発生しかねません。知的財産権の問題は、企業にとって死活問題ともなりえるのです。
知的財産権を侵害しているかどうかが争われた事例を1つご紹介します。
2011年、新潟県長岡市の越後製菓が、『サトウの切り餅』で知られる新潟市のサトウ食品工業に対して、切り餅の切り込みの特許権を侵害したとして製品の製造販売差し止めと約14億8000万円の損害賠償を求めました。
原告の越後製菓は、餅を焼いたときに破裂してしまうのを防ぐため、餅の側面に切り込みを入れる特許を2002年に出願し、2008年に特許として登録されました。一方、サトウ食品は、側面に加えて上下面にも切り込みを入れた商品の特許を2003年に出願し、2004年に取得していました。
争点になったのは、側面だけでなく上下面にも切り込みを入れるというサトウ食品の特許の内容が、側面に切り込みを入れるという越後製菓の特許を侵害しているかどうかです。
一審判決では越後製菓の特許とサトウ食品の特許は別の内容だとして、知的財産権の侵害を否定しました。ところが控訴審の知財交際は、サトウ食品による知的財産権の侵害を認定し、サトウ食品に対して約8億円の損害賠償を命じました。
【関連記事】
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では、知的財産権の侵害に対してはどのような罰則が定められているのでしょうか。
特許権、商標権、意匠権、著作権を侵害したときの罰則は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金です。懲役刑と罰金刑とが両方科されることもあります。
実用新案権を侵害したときの罰則は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が科されます。やはり懲役刑と罰金刑とが両方科されることもあります。
参考:「知的財産権と刑事罰」特許庁 (社) 発明協会アジア太平洋工業所有権センター
では、自社が保有する知的財産権を侵害されたらどうすればよいのでしょうか。
権利侵害が行われているときには、まずは一刻も早く侵害行為を停止させ、被害を最小限に抑えなければいけません。そこで、権利侵害を行っている相手方に対して現在と将来にわたっての権利侵害を止めるよう求めることができます。これが差し止め請求権です。
差し止め請求権の一環として、廃棄除去請求権が認められる場合もあります。これは侵害の結果として製造された物の廃棄や、侵害物を製造するための設備の償却を請求するものです。
誰かの知的財産権侵害行為によって損害が発生した場合には、損害賠償請求を行うことができます。では、相手に請求する損害賠償額はどのように算定するのでしょうか。
特許法では、損害賠償額の算定方法について規定されており、次の式で求められます。
【「損害額」=「侵害者の譲渡等数量」×「権利者の単位あたりの利益」-「権利者の実施能力を超える部分に相当する金額」】
例えば、他社が自社の特許権を侵害して作った模造品を販売して利益を得ていたとしましょう。この場合、侵害者が販売した模造品の数量に、権利者が商品を販売したときに直接的に得られる利益をかけ合わせます。
しかし、権利者にそれだけの商品を販売する能力があるとは限りませんので、権利者の能力を超える分がある場合には、その分を差し引きます。通常、損害賠償請求を行うためには、他者の故意や過失によって損害が発生したことを立証しなければいけません。
ところが、特許権、意匠権、商標権を侵害した者は、過失があったものと推定されているだけの状態です。つまり、知的財産権を侵害したと主張された側が『自分に過失がなかったこと』を立証しなければ、過失があったと認定されるのです。これを過失の推定といいます。
ただし、実用新案権や著作権にはこのような過失の推定に関する規定はありません。
損害賠償請求権は、3年で時効が成立し、権利が消滅してしまいます。その場合は、不当利得返還請求を行うことが考えられます。不当利得返還請求権は、相手が正当な理由なく他人の損失によって利益を得たときに、受けた利益の返還を求めることができるものです。
不当利得返還請求権は時効が10年と損害賠償請求権と比べて長いため、損害賠償請求権が消滅した後でも行使することができます。
特許権、商標権、著作権法などを侵害した者には懲役や罰金が科されます。知的財産権を侵害されたときには、告訴したり、被害届を提出することで、捜査機関に被害を申告することができます。
相手が刑事罰を受けたからといって被害額が返還されるわけではありません。しかし、相手に対して刑事告訴も辞さないという意思を伝えることで、権利侵害行為をやめさせることも期待できます。
知的財産権を侵害された場合の対処方法をご紹介しましたが、逆に、こちらが相手の知的財産権を侵害してしまっていることもあり得るでしょう。
知的財産の侵害は、知らず知らずのうちに行ってしまい、突然多額の損害賠償請求を求められるリスクがあります。リスクマネジメントの観点からも、他者の知的財産権を侵害して多額の損害賠償請求をされないよう、知的財産権の管理を行うことが重要です。
知的財産権の侵害を防ぐためには、すでに登録されている特許や商標などについて、事前に十分に調査を行っておくことが重要です。
インターネット上で特許・実用新案、意匠、商標を検索することができるサービスとして、特許情報プラットフォーム『J-PlatPat』があります。あくまで簡易な検索システムですが、まずはこれを使って検索をするとよいでしょう。
知的財産権と法律の専門家として、弁理士や弁護士がいます。
過去に出願されたものと似たような技術について専門的な調査を行うときには、弁理士に依頼することをおすすめします。特に新しい技術開発に成功したときには、他の誰かに出願されてしまう前にできる限り早く弁理士に相談しましょう。
また、知的財産権の侵害を訴えられた際には、紛争になることが予想されます。このような場合、弁理士ではなく弁護士しか、対応することができません。そのような状況になった場合には、すぐに弁護士へ相談することをおすすめします。
【関連記事】知的財産の問題を弁護士に依頼するメリットとは
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知的財産権を企業の貴重な経営資源です。知的財産を侵害されたときには、被害が拡大してしまう前に一刻も早く対策を打つ必要があります。
まずは相手方の製品などを分析し、本当に自社の知的財産権が侵害されているのかどうか確認しましょう。
権利侵害の事実が認められたときには、差し止め請求によって被害の拡大を防ぎ、損害賠償請求によって被害を回復するよう努めましょう。