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インターネット上で誹謗中傷を受けた方は、投稿者に対して損害賠償(慰謝料など)を請求できます。
ただし、誹謗中傷の投稿者に対して損害賠償を請求するためには、多くのハードルを越えなければなりません。
実際に誹謗中傷の投稿者を訴えるのは難しく、さまざまな事情から断念してしまう方も多くいらっしゃいます。
本記事では、誹謗中傷の投稿者を訴えることが難しい理由や、訴えることができるかどうかを判断するためのポイントなどを解説します。
インターネット上で誹謗中傷を受けていて、投稿者を訴えるべきかどうかお悩みの方は、本記事を参考にしてください。
インターネット上で誹謗中傷を受けたら、法的には投稿者に対して、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料など)を請求できます(民法709条)。
しかし実際には、誹謗中傷の投稿者を訴えるのは難しく、損害賠償を獲得するまでには多くのハードルを越えなければなりません。
誹謗中傷の投稿者を訴えるのが難しい理由としては、主に以下の各点が挙げられます。
他人に対するネガティブな言動が、すべて違法な誹謗中傷に当たるわけではありません。
合理的な理由のある正当な批判は表現の自由(日本国憲法21条1項)によって保障されており、違法な誹謗中傷に当たらないためです。
違法な誹謗中傷と正当な批判の境界線は、必ずしも明らかではありません。
法律上は「公共の利害に関する場合の特例」(刑法230条の2)の要件(=公共性・公益性・真実性)に該当するか否かによって区別されますが、これらの要件は抽象的な側面が強く、違法な誹謗中傷と正当な批判を明確に区別することは困難です。
違法な誹謗中傷だと判断して投稿者を訴えても、結果的に正当な批判だと判断されて、損害賠償請求が棄却されてしまうケースも少なくありません。
誹謗中傷の投稿について損害賠償を請求する際には、法的な観点から、投稿内容が違法な誹謗中傷に当たることを合理的に説明できるよう準備を整える必要があります。
インターネット上における誹謗中傷の投稿は、匿名でおこなわれるケースが多いです。
匿名の投稿者に対して損害賠償を請求するためには、投稿者が誰であるかを特定する必要があります。
後述するように、投稿者の特定は発信者情報開示請求によっておこなうのが一般的です。
しかし、発信者情報開示請求は時間と費用がかかる手続きであり、必ず成功するとは限りません。
匿名投稿者を特定できなかった場合は、損害賠償請求も断然せざるを得なくなってしまいます。
誹謗中傷の投稿に関する損害賠償請求には、匿名投稿者を特定するための発信者情報開示請求や、特定した投稿者との示談交渉・訴訟などの手続きを要します。
これらの手続きには法的な知見が不可欠なので、弁護士に対応を依頼するのが一般的です。
弁護士に依頼する際には弁護士費用がかかる一方で、誹謗中傷の投稿について多額の損害賠償を受けられるケースは少数です。
結果的に、得られた損害賠償の額を弁護士費用が上回り、費用倒れに終わってしまうリスクがあります。
費用倒れのリスクを度外視して、誹謗中傷の投稿者を懲らしめるために損害賠償を請求するというのはあり得る考え方でしょう。
しかし、あくまでも経済的な得失を重視する方は、費用倒れのリスクを考慮して損害賠償請求を断念してしまう例が多く見られます。
インターネット上の不適切と思われる投稿について、投稿者に対して損害賠償を請求するに当たっては、まずはその投稿が自分の権利を侵害するものであるか否かを判断しなければなりません。
インターネット上の投稿が権利侵害に当たるケースとしては、以下の例が挙げられます。
誹謗中傷は名誉毀損または侮辱に該当することが多いですが、それ以外に肖像権侵害やプライバシー権侵害などが成立することもあります。
名誉毀損・侮辱 |
社会的地位を低下させるような誹謗中傷をされている場合 |
---|---|
肖像権侵害 |
写真や動画を勝手に撮影・投稿されている場合 |
プライバシー権侵害 |
個人情報や私的な事柄を勝手に晒されている場合 |
SNSなど公共のインターネット空間において、他人の社会的評価を低下させるような内容の投稿をすることは「不法行為」に当たり、投稿者は被害者に対して損害賠償責任を負います(民法709条)。
また刑法上は、誹謗中傷に当たるSNS投稿は「名誉毀損罪」(刑法230条1項)または「侮辱罪」(刑法231条)に該当する可能性があります。
投稿の中で何らかの事実を摘示した場合は名誉毀損罪、事実の摘示がない場合は侮辱罪の成否が問題となります。
いずれの罪についても、被害者は投稿者を刑事告訴することが可能です(刑事訴訟法230条)。
「肖像権」とは、人が自らの容ぼう(姿)などについて有する権利です。
肖像権には「人格権」と「パブリシティ権」が含まれます。
他人の写真や動画を勝手に撮影し、それをSNSなどへ勝手にアップロードする行為は、肖像権の侵害に当たることがあります。
特に以下のようなケースでは肖像権侵害が成立し、被害者は投稿者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求できる可能性が高いです(民法709条)。
「プライバシー権」とは、私生活上の事柄をみだりに公開されない法的保障・権利です。
また、自己に関する情報をコントロールする権利(=開示・訂正・削除請求権など)もプライバシー権に含まれるとする見解も有力に主張されています。
プライバシー権侵害は、以下の要件を満たす場合に成立すると解されています(東京地裁昭和39年9月28日判決参照)。
SNSなどにおいて、他人の個人情報や私的な事柄を勝手に晒すことは不法行為に当たり、被害者は投稿者に対して損害賠償を請求できる可能性が高いと考えられます(民法709条)。
さらに、プライバシー権侵害に加えて誹謗中傷もおこなわれている場合は、高額の損害賠償が認められる可能性が高まります。
インターネット上における誹謗中傷は、匿名で投稿されるケースが非常に多いです。
匿名で誹謗中傷を投稿した者を特定するためには、発信者情報開示請求をおこなうのが一般的です。
ただし、発信者情報開示請求だけでは投稿者の特定に至らないケースもあります。
発信者情報開示請求の手続きには、「従来型」と「発信者情報開示命令」の2種類があります。
「従来型」の手続きでは、誹謗中傷が投稿されたサイトの管理者(=コンテンツ・プロバイダ)と、投稿に用いられた端末のインターネット接続業者(=アクセス・プロバイダ)に対して2段階で発信者情報開示請求をおこないます。
まずコンテンツ・プロバイダから投稿に紐づいたIPアドレスなどの開示を受け、それを基に特定したアクセス・プロバイダから、投稿に用いられた端末の契約者情報(氏名・住所など)の開示を受けて投稿者を特定します。
従来型の発信者情報開示請求の所要期間は、半年から1年程度が標準的です。
「発信者情報開示命令」は、2022年10月から施行された改正プロバイダ責任制限法によって新設された手続きです。
コンテンツ・プロバイダとアクセス・プロバイダに対する発信者情報開示請求を、実質的に1つの手続きで審理することにより、発信者情報の開示の迅速化が図られています。
発信者情報開示命令の手続きの所要期間は、3か月から4か月程度が標準的です。
ただしコンテンツ・プロバイダの動きが遅い場合には、仮処分命令に基づく間接強制をおこなうことができる従来型の手続きの方が、結果的に早く発信者情報の開示を受けられることがあります。
誹謗中傷の投稿に関する発信者情報開示請求は、以下のような原因により失敗してしまうことがあります。
サイト管理者(コンテンツ・プロバイダ)においては、IPアドレスなどの発信者情報を3か月から6か月程度で削除してしまうケースが多いです。
発信者情報が削除されると、開示請求をしても空振りに終わってしまいます。
アクセス・プロバイダから開示を受けることができるのは、誹謗中傷の投稿に用いられた端末のインターネット回線等に関する契約情報です。
投稿者が他人の端末(例:インターネットカフェの端末)を用いて投稿した場合には、発信者情報開示請求だけでは投稿者の特定に至りません。
誹謗中傷の投稿について発信者情報の開示を受けられなかった場合には、その投稿について投稿者を特定する手掛かりがなくなってしまいます。
ただし同一人物によるものと思われる別の不適切な投稿が存在する場合には、その投稿につき改めて発信者情報開示請求をおこなえば、投稿者を特定できる可能性があります。
投稿者本人のものではない端末を用いて誹謗中傷の投稿がなされた場合には、その端末の利用状況を別途調査することにより、投稿者が判明することがあります。
たとえばインターネットカフェの端末であれば、弁護士を通じて、店舗に対して利用履歴を照会することなどが考えられるでしょう。
発信者情報開示請求が失敗したにもかかわらず、引き続き投稿者の特定を試みることは容易ではありません。
弁護士に相談して、どのような方法が考えられるのか、現実的に投稿者を特定できる可能性があるのかなどについてアドバイスを受けましょう。
発信者情報開示請求などによって誹謗中傷の投稿者を特定できたら、投稿者に対して損害賠償を請求しましょう。
損害賠償請求の主な方法には、投稿者に対して直接請求する方法や、裁判所に訴訟を提起して請求する方法などがあります。
投稿者の氏名や住所が判明したら、内容証明郵便などによって投稿者に請求書を送付しましょう。
返信があれば、示談交渉を通じて損害賠償を請求します。
示談交渉がまとまれば、コストを抑えつつ早期に損害賠償を受けることができます。
示談交渉をまとめるためには、誹謗中傷に関する客観的な証拠を提示することと、適正な損害賠償額を提示することが大切です。
特に損害賠償額については、高い金額を提示しすぎると、相手が拒否して示談交渉がまとまらない可能性が高くなります。
弁護士に相談しながら、どの程度の金額を提示すべきかを事前によく検討しましょう。
誹謗中傷の投稿者が示談に応じない場合には、裁判所に対して損害賠償請求訴訟を提起します。
訴訟では、誹謗中傷の被害を受けた事実や、誹謗中傷によって被った損害を立証しなければなりません。
投稿内容のスクリーンショットや、精神的損害の大きさを示す資料(医師の診断書など)を、裁判所に証拠として提出しましょう。
誹謗中傷の投稿者に対して損害賠償を請求する手続きは複雑かつ専門的なので、弁護士に対応を依頼することが推奨されます。
ただし、弁護士に依頼する際には弁護士費用がかかります。
獲得が見込まれる損害賠償の金額と弁護士費用を比較したうえで、弁護士に依頼して損害賠償請求をおこなうべきかどうかを適切にご判断ください。
誹謗中傷の投稿者に対する損害賠償請求の弁護士費用は、以下の金額が目安となります。
着手金 |
11万円~22万円程度 |
---|---|
報酬金 |
請求額の17.6%程度 |
たとえば、50万円の損害賠償を受けられた場合の弁護士費用は、総額で20万円から30万円程度が目安です。
100万円の損害賠償を受けられた場合の弁護士費用は、総額で30万円から40万円程度が目安となります。
誹謗中傷の投稿者が匿名のケースにおいて、投稿者を特定するための発信者情報開示請求も弁護士に依頼する場合には、さらに追加で弁護士費用がかかります。
発信者情報開示請求の弁護士費用は数十万円程度かかるのが標準的です。
なお、実際の弁護士費用は依頼先によって異なるので、正式に依頼する前に必ず見積もりを提示してもらいましょう。
誹謗中傷の被害者が、投稿者に対して請求できる損害賠償(慰謝料)の金額は、50万円から100万円程度が標準的です。
営業妨害によって売り上げが減少したなどの事情があれば、より高額の損害賠償が認められる余地がありますが、誹謗中傷と損害の因果関係を立証しなければなりません。
発信者情報開示請求と損害賠償請求を弁護士に依頼する場合は、少なくとも50万円程度の損害賠償を獲得できなければ、費用倒れ(=弁護士費用が損害賠償額を上回ること)になってしまうケースが多いでしょう。
実際には、発信者情報開示請求をしても投稿者を特定できなかったり、投稿者がお金を持っておらず損害賠償を受けられなかったりすることもあります。
本記事で解説したようなさまざまな事情から、誹謗中傷の被害者が、投稿者の責任を追及するためのハードルはかなり高いのが実情です。
それでも、誹謗中傷は決して許されることではありません。
誹謗中傷の投稿者にきちんと責任を負わせたいと考えている被害者の方は、一度弁護士の無料相談を利用することをおすすめします。
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